「4番」第4楽章の翻訳〜天上の生活〜

マーラーフェスティバルも終盤になってきました。
『4番』はハーディング=マーラーチェンバーオケです。これも聞き逃せませんね。
第4楽章の翻訳をしてみましたが、これは不思議な歌詞ですね。高校生のとき初めてこの対訳を見て、なんか意味不明だったのです。聖人の名前がいっぱい出てくるので、「なんじゃらほい???」と思ったものです。
しかし、今思うと、これはどうも日本で言えば「七福神」みたいなものなんじゃないかと。ここに集っているのはキリスト教的な神ではなく、実は多神教の神様たちですね。
子供の不思議な角笛』はドイツの俗謡をブレンターノとアルニムが編集した作品です。ですから庶民の素朴な感情が出ています。ドイツは実はキリスト教化されたのが非常に遅い国なので、多神教を信じていた頃の感覚が今でも濃く残っている民族だと言われます。(そのあたりは昔、阿部謹也先生の本から学びました)「ロマン派」というのは、そういう「先祖帰り」だったとも言えます。
ただ、やっぱり不思議な歌詞であることは間違いなく、特に第2段落目のヨハネ、ヘロデ、子羊というのは、明らかに子羊はイエスのことなのですが、歌っている天使は、そのイエスを死なせるんだと言っています。このあたり、音楽も短調になって悲しそうですね。マーラーはどのように解釈して作曲していたか想像すると面白いです。
マーラーの「2番」から「4番」までは「角笛交響曲」と言われていますが、この曲はこのシリーズの結論でしょう。「4番」というのは、演奏時間も短いし、軽く見られがちですが、なかなかどうして侮れません。非常に完成された曲ですから、ここまでやったことに満足して、次に「5番」で新たな実験を試みたのだろうと思います。
マーラーの取り組みというのはとても一貫していて、「2番」から「4番」の声楽交響曲は、「キリスト教的救済」(2番)から「ニーチェ永劫回帰」(3番)を経由し「汎神論的世界観」(4番)に到達して、ひとまずの区切りをつけたと考えることもできそうです。

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Das himmlische Leben

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Wir genießen die himmlischen Freuden,
d'rum tun wir das Irdische meiden.
Kein weltlich' Getümmel
hört man nicht im Himmel!
Lebt alles in sanftester Ruh'!
Wir führen ein englisches Leben!
Sind dennoch ganz lustig daneben,
Wir tanzen und springen,
Wir hüpfen und singen!
Sankt Peter im Himmel sieht zu.

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Johannes das Lämmlein auslasset,
der Metzger Herodes drauf passet!
Wir führen ein geduldig's,
unschuldig's, geduldig's,
Ein liebliches Lämmlein zu Tod!
Sankt Lukas, den Ochsen tät schlachten
ohn' einig's Bedenken und Achten,
der Wein kost' kein Heller
im himmlischen Keller,
die Englein, die backen das Brot.

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Gut' Kräuter von allerhand Arten,
Die wachsen im himmlischen Garten!
Gut' Spargel, Fisolen
und was wir nur wollen!
Ganze Schüsseln voll sind uns bereit!
Gut' Äpfel, gut' Birn und gut' Trauben!

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Die Gärtner, die alles erlauben!
Willst Rehbock, willst Hasen,
auf offenen Straßen
sie laufen herbei!
Sollt ein Festtag etwa kommen
alle Fische gleich mit Freuden angeschwommen!
Dort läuft schon Sankt Peter
mit Netz und mit Köder
zum himmlischen Weiher hinein,
Sankt Martha die Köchin muß sein.

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Kein Musik ist ja nicht auf Erden,
die uns'rer verglichen kann werden,
Elftausend Jungfrauen
zu tanzen sich trauen!
Sankt Ursula selbst dazu lacht!
Kein Musik ist ja nicht auf Erden,
die uns'rer verglichen kann werden.
Cäcilia mit ihren Verwandten,
sind treffliche Hofmusikanten!
Die englischen Stimmen
ermuntern die Sinnen,
daß alles fur Freuden erwacht.
(aus Des Knaben Wunderhorn)

第4楽章

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天上の生活

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私たちは天国の喜びを味わっています。
ですから地上のことにはかかわりません。
いかなる世俗の騒音も
この天上には聞こえてきません!
全てがこのうえなく穏やかで安らかなのです。
我らは天使の生活を送っています!
でもこれは、とても愉快な生活なのです。
踊ったり、飛んだり、
ぴょんぴょん跳ねたり、歌ったり。
天の聖ペテロが見守っておられます。

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ヨハネは子羊を放し飼いにし、
肉屋のヘロデが見張っています。
私たちはその中からおとなしい子羊・・・
とてもおとなしくて無邪気で、
かわいい子羊を死なせてしまう!
聖ルカも、物惜しみせずに
自分の雄牛をほふらせます。
天上の酒蔵では
葡萄酒のお金はいりません。
小さな天使達もパンを焼きます。

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いろんな種類の香草が
天の庭には育っています。
アスパラガスやインゲン豆、
その他もろもろお好みしだい!
皿いっぱいに盛り合わされて!
すてきなリンゴと梨、そしてブドウ・・・

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お庭の番人は全てを取り放題にしてくれます。
鹿やウサギが欲しいのならば、
道に出るだけでいいのです。
向こうのほうから駆けてきます!
もしも祭りの日が来たら、
魚も喜んで泳いで来ます!
そこへ聖ペテロが駆け寄って
網と餌とで釣り上げて、
天国の生け簀に投げ入れます。
料理するのは聖マルタ。

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私たちの音楽に比べられるものが
この地上にあるでしょうか。
11000人の乙女たちが
踊り出さずにはいられません!
聖ウルズラも微笑みます!
私たちの音楽に比べられるものが
この地上にあるでしょうか。
チェチーリアとその一族は、
とても素晴らしい宮廷楽師。
天使が歌えば
皆の心はわくわくし、
すべてが喜びに目覚めるのです。
(『子供の不思議な角笛』より)

ちなみに、ペテロは「3番」でも「大活躍(?)」なのですが、福音書では、彼はガリラヤ湖で漁師をしていた所をイエスに声をかけられ、弟子になっているのです。ですから「お魚を天国の生け簀に投げ入れる」わけですね。
あと、最後に出てくるチェチーリアは音楽の守護聖人です。
このほか、ルカ、マルタ、ウルズラもたぶん背景があって、こういう役割になっているのでしょうが、そのへんは知識がないのでよくわかりません。もうちょっと勉強してみようと思います。