新国立劇場「影のない女」の感想

影のない女」、今日もやっていたはずですね。なぜか、公演日になると雨が降るような気がするのは気のせいでしょうか?あと1回公演が残っていますが、そろそろ感想書くことにします。もし、まだ行っていなくて、千秋楽に行く方は、ネタバレありなので読まないでください。
3人のソプラノ歌手は、みなさん良かったのですが、特にバラクの妻のステファニー・フリーデさんと、乳母のジェーン・ヘンシェルさんですね。皇妃役のエミリー・マギーさんも良いのですが、一つ思ったのは、どうも声質が「バラクの妻」と同じなので、同じ土俵で比較してしまうと、この曲の場合「バラクの妻」に軍配が上がってしまうという感じがします。思うに、皇妃というのは、もっと「キラキラ・ヴォイス系」のほうが似合うかもしれません。(今回、カーテンコールも、バラクの妻がトリだったのですが、通常そういうものなんですかねえ?)ただ、マギーさんは長身でスタイルが良いので、舞台で映えますね。フリーデさんはマギーさんにに比べると小柄な感じがしました。ちなみに、ヘンシェルさんは、さらに小柄で、ぬいぐるみみたいな感じです。第3幕で床に吸い込まれていく所が、特に微笑ましかったですね。

男性陣は、バラクのルーカス氏はけっこう良かったのですが、皇帝のバーバさんは少なくとも初日は、イマイチに感じました。
第1幕の幕切れの「夜警の3重唱」が余り良くなかったのが残念で、舞台裏からの音が聞こえにくいせいかも知れませんが、オケとマッチしていないのが、ちょっともどかしい感じでしたね・・・。
演奏で思ったことは、金管がしょっちゅう音を外していたことです。これは2月の「ジークフリート」の時も感じました(別のオケですが)。日本のオケって、管がどうも・・・と思うのは私だけでしょうか?私、自分で楽器をやるわけじゃないし、あまりエラそうなことを言うのはやめようと思うのですが、これは20年来の「もどかしさ」です。そういう時は、弦と管がすごくズレているような感じがすることが多いです。(いったん気になってしまうと、ずっと気になるということかもしれませんが。ただ、「黄昏」と「パルジファル」では、ほとんどそれを感じませんでした。)初日で、気候的にコンディションの良くない日だったから、その後良くなっていればいいのですが。
 演出については、そんなに奇をてらわない演出でした。これはこれでいいのかな?という面もあります。第1幕の、バラクの妻が髪飾りをもらって変身するシーンでは、バラクの妻自身は変身しないで、皇妃がガラス越しに身支度を整えるのですが、マギーさんが舞台映えするので、このシーンがとてもきれいでした。
逆に、非常に気になったことは、第2幕の幕切れです。バラクの妻が「あたし、あんたのいない間に別の男を家に入れたのよ」と言う時に、バラクが何の反応も無く下を向いたまま仕事を続けていることですね。「そりゃないだろ・・・バラク」と私なぞは思ったのですが、どうですかねえ?「影を捨てた」という所になって、ようやく反応するのですが・・・。第2幕のその後の展開がイマイチ分からなくて。バラクとバラクの妻は最後に激しく抱きしめ合うのですが、まるで「ワルキューレ第1幕」の幕切れのようです。ウーム?なんでいきなりこんなにラブラブになったのだ?ここでこうなると、第3幕冒頭はどう処理するのだろう?と思ったのですが、やはり案の定で、第3幕冒頭のコンセプトは良く分かりませんでした。歌は良かったので、まあいいのですが。
あと、アラ探しみたいで良くないですが(4階にいたので、余計思ったのかもしれませんが)皇妃の「影」がしょっちゅう舞台に映ってしまうんですよね。「皇妃、影あるじゃん?」みたいな。このへん難しいとは思いますが、大事なことのような気がします。
一方で、今思い出したのですが、良かったところは、第2幕でホームレスの子供たちが集まる所が、ホームパーティーになっていたことですね。こういうのは、分かりやすいので私は好きです。
演出家のドニ・クリエフさんは、パンフレットに演出のコンセプトを書いているのですが、終演後に読んだら、ちょっとびっくりしました。皇帝、皇妃、鷹というのは、すべてバラクの妻の頭の中の妄想だと解釈するべきだと言うのですが?「オランダ人」はゼンタの頭の中の妄想だという演出と似ているような気もします。
もちろん、それは一つの解釈なのですが、演出を見ていて、あまりそういう風には思えなかったものですから・・・。そういう解釈なら、劇の冒頭からバラクの妻を登場させるとか何か工夫が無いとわからないような気が?混乱するので、終わってからパンフレットを読んで良かったなという気がします(笑)
ただ、そのコンセプトに沿って、舞台を現代に設定すると、ある意味面白いかも??例えば、第1幕はこんな感じ。
・ 皇帝カップルとバラクカップルは「お隣さんどうし」である。
・ バラクの妻は、皇帝カップルはお金持ちで夫婦仲も良いと思い込む。(「となりの芝生」状態ですね)運転手付きの外車に乗って出社(?)する皇帝と、お手伝いさん(乳母)がいる皇妃を見て、彼女は、ますます現状に不満を抱く。
・ バラクは普通の会社員なのだが、仕事に追われており、深夜に帰宅すると、妻の訴えに耳を貸さず、自室に行く。もともと家庭内別居状態で、テレビから「夜警の歌」が聞こえて来るので「お前も聞いているかい?」とか寝言を言いながら寝てしまう。
以下いろいろ空想できるのですが、これじゃ、きっとブーイングの嵐ですね。クリエフ氏も、パンフに書いたとおり演出しなくて正解だったかも知れません(笑)。それにしても、今回、私としては、皇妃をどう捉えるかが主眼だったはずでした。というのも、対訳のコメントでも書いたように、バラクカップルより、皇帝夫妻のほうが本当は問題が深刻だと思っているので・・・。むしろ、そっちに着目してほしかったな。でも、これは無い物ねだりですね。
最後に、ソプラノの棲み分けという話に戻ると、これ、みんなドラマティック系ですから、実はソプラノ歌手にとっては、三人すべて歌える可能性があります。ニルソンがバラクの妻、メゾに移った後のヴァルナイが乳母をやっていた音源がありましたが、ニルソンは初め皇妃をやるか、バラクの妻をやろうか迷ったと自伝に書いてありました。ただ、バラクの妻のほうが合っていることに気付いたとあるのですが、確かに、これが正解でしょうね。フリーデさんもブリュンヒルデを歌っているらしいので、そういう人はこちらが合う感じがします。マギーさんは、ローエングリンのエルザを歌ってますから、こういう棲み分けになるんでしょうね。
最近考えていたのですが、どうも、「皇妃」とか「エルザ」の「おしとやかキャラ」は表現が難しい気がいたします。もちろんブリュンヒルデも難しいですが、ある意味、ストレートに感情表現できる場面が多いですからね。実は、「エルザ」って「これだ!」と思ったことが余り無いので、もっといろいろ聴いてみた方が良いかもしれません。「皇妃」は、ショルティ版DVDのスチューダーさんは、かなり良いと思います。適度に「キラキラ系」だから良いのかも知れません。