シルマー・N響のパルジファル(東京文化会館2010.4.4)

今日はサントリーホールに小山由美さんのコンサート、昨夜はタイトルの東京文化会館パルジファル」に行ってきました。
今日も良かったのですが、昨日のパルジファルも、いやあ、良かったです。期待していたのですが、思った以上でしたね。大満足です。
パルジファルは「癒し」の音楽なので、さわやかな気持ちで家に帰れます。上野公園は桜が満開だったので、夜桜見物して帰りました。
歌手は、全体的にレベルがすごく高いですね。実は、そんなに知らなかった人が多かったので、すごく得した気分。シルマーの指揮も、なかなかのものだし、N響もいいです。華やかではなく「いぶし銀」な感じ。この曲の気分に合っていますね。
第1幕の前奏曲からして、丁寧な感じで好感が持てました。グルネマンツのペーター・ローズさんは、初めはちょっと固い感じでしたが、だんだん良くなっていきました。この曲はグルネマンツが良くなければいけませんからね。
アンフォルタスのグルントヘーバーさんも、最初の登場は音量が弱かったので心配していたのですが、舞台転換の後のアリアは、かなり良かったです。第1幕は、これが白眉で、Strafe!(罰を)と叫ぶところの表現が感動的でした。
クンドリーのミヒャエラ・シュスターさんも素晴らしかった。ミヒャエラさんは、声もそうですが、雰囲気がクンドリーですね。(と言われてうれしいかどうかは別として・・・)
第1幕の舞台転換の音楽は、いいですよね〜。ここをシルマーさんは、わりと早いテンポでサクサクっと進めて行くのは意外でしたが、新鮮味があります。「巨匠風」のゆるいテンポをあえて拒否している感じですね。でも、最後の盛り上げ方はさすが。けっこう聴かせます。「ダンダダン・ダンダン」とティンパニを叩くのが見られるのは、コンサート形式ならではか?観てるだけで、けっこうストレス解消になります(笑)
合唱はいいですねえ。「パルジファル」って、第2幕にも「花の乙女」がいるから、全編にわたって合唱があって楽しい限りです。
事前に「第1幕は105分です」とのアナウンスを聴いて笑っちゃいましたが、長さを感じなかったですね。
さて、第2幕。短いけどドラマ濃縮です。クリングゾルは、パンフにも出ていなかったから、ノーチェックだったのですが、あら?日本人でしょうか?Die Zeit ist da!・・・おお、何て美声だ!ドイツ語の発音もきれい!こんな日本の歌手がいたとは!・・・と思ってあとでパンフを見たら、「シム・インスン」・・・韓国の方ですね。冬季オリンピック以来、韓国にやられっぱなしです(笑)。
それにしても、このクリングゾル、声に演技があっていいです。この方、まだ若そうですが、これから相当な所までいくんじゃないでしょうか。注目です。
「花の乙女たち」が出てきますが、あら?みんな、黒い服とは。せっかくなので、カラフルな衣装で登場してほしかったのですが。欲張りすぎですかね?でも、歌はきれい。この歌って、2つの女性グループがあって、1グループあたり3人のソロと約20人ほどのバックシンガーが、別のグループとパルジファルの争奪戦を繰り広げる歌なんですね。コンサート形式だと、そのへん良く分かっていいですね。
komm,komm,holder Knabeのあとのソロを歌っていた方はうまかったです。でも、誰が誰だか分からないのは難点ですね。
そして、いよいよ「パルジファルの誘惑」です。ミヒャエラさんは、最初のパルジファルへの呼び掛けこそ、やや弱く感じたのですが、だんだん本領を発揮し、Ich sah ein Kind以下のアリアは、とても良かったです。パルジファルもそれに心をほだされ、かなりいいドラマになっていました。
クンドリーが「イエス・キリストの眼差し」を語る部分も、決して急がずに、きちんとドラマを作っていました。このへん、シルマーの指揮が光ります。とりわけ良かったのが、endlos durch das Dasein quält!(終わりなく臨在して、あたしを苦しませる!)のDaseinですね。ミヒャエラさんの歌唱とも相まって絶品でした。
このdas Dasein(あの現存在)って、キリストのことだと思いますが、クンドリーの目の前には、キリストの存在が常にちらついているということが良くわかりました。第2幕って本当にすごいドラマですよ。これを聴かずに死ねるか(笑)って感じです。良かった・・・。
さあ、第3幕はゆったり行こうと思ったら、サプライズは、シルマーさんの音楽づくりでした。第3幕の前奏曲をこんなにドラマティックにやるとは・・・すごく引き込まれてしまい、身を乗り出してしまったが最後、あとはそれこそ魔法にかかったように、ずっとドラマを追ってしまいました。CDで聴いていると、退屈に思えるのですが、こんなに引き込まれてしまうとは。我ながらびっくりです。ミヒャエラさんも、最初の「叫び」と唯一の「セリフ」のあとも立ち上がったまま、仕草でドラマを表現していましたね。これは良かったです。
あっという間に「聖金曜日の音楽」というのも心地よいですね。ここはシルマーさんの指揮は、わりとサラッとしていたように思えます。これだけ盛り上げようとか思わない姿勢は、私には好感が持てます。
逆に、その後の舞台転換から合唱が入ってくるのですが、この部分は、そろわないぐらいテンポを揺らして盛り上げていましたね。おおっ、どうしたんだ?という感じ。でも、何か表現したいことがわかるので、これもいいですね。
そして大団円。なんか幸せな気持ちになります。これ、若いころは分からなかったのですが、年とるにつれ、いいと思えてきました。
最後のコーラスの字幕は「救済者に救済を!」ですか・・・。あまり字幕を見ないようにしていたのですが、つい見てしまいました。私は「救い主が(今)救われた!」だと思うんですが。この前「パルジファル」を訳した後、あまりに気になったので、白水社のでっかい本を遠くの図書館に見に行きました。この本で、池上純一先生の解説を見ると、「願望とも現在とも解釈できる」とあり、「やはりそうか。良かった良かった」と思いました。ちなみに、ニーチェは、願望としてではなく、私のように「今救われた」と捉えていることが、彼の書いた文章からわかります。もちろん(?)ひねくれた書き方なのですが。
それはそれと、すごくいい演奏でした!こんないいものが聴けて幸せ。早々と2010年ベストになってしまったのではないかと恐れます。「パルジファル」って、一人ひとりの歌唱の良さが必須なのはもちろんですが、スタンドプレーではなく、全体のレベルが高いことが、とりわけ求められるように思います。そういう意味では、この演奏は、すごく有名な人がいたわけではないので興行的にどうだったか(1階に空席がわりと目立った)はわかりませんが、とてもレベルの高い演奏でした。本当に良かったです。
今日も「パルジファル」第2幕からの抜粋だったのですが、そのレビューは、また次回。それにしても、この1週間に3回もワーグナーを聴いてますね。一体何が起きているのでしょう?