新国立劇場「パルジファル」感想

とうとう新国立劇場パルジファル」本番です。5日(土)の公演を聴いてきました。夜も遅いので、まずはざっと感想を。
思った通り、というか思った以上に良かった!の一言に尽きます。
歌手が皆さん、素晴らしかったです。これだけの歌手に恵まれるというのは、そうそう無いのではないでしょうか。熱のこもった入魂の演技でした。
グルネマンツのジョン・トムリンソン氏、さすがとしかいいようのない演技力です。アクセントがはっきりしていて、歌というよりも「セリフ」であることを前面に押し出し、時には「Nein!」とうめいたり、と何ともドラマティックなグルネマンツです。第1幕での長い語りは、あたかも自らがアンフォルタスであるかのように迫真性を込めて演じているので、まるで退屈しないで飲み込まれてしまいました。これには、オケのほうもドラマティックに興を添えていたと思います。劇場の音響もあるのか、中低音が良く響くのが、歌を支えていました。
パルジファルクリスティアン・フランツ氏は、久々にお聞きしましたが、やはり良い声ですね。ムードがすごくパルジファルに合っています。良かったのは、第2幕の「アンフォルタス!」で、すごく感情を込めながら、悲しそうに叫んでいたこと。そのあとも、切々と、気づいたばかりの苦しみを歌い上げるところが胸に迫りました。第3幕でも、最初は苦しそうに歌っているのですが、最後の聖杯が顕れるところの歌が、実に晴れやかで、積年の心の憂さも取れたとばかりで印象的でした。
クンドリーのエヴェリン・ヘルリツィウスさんも実にドラマティックでした。声量もたっぷりしているのですが、声は若々しい感じで、とりわけ見事だったのは、第2幕の「幼な子の胸が」でした。これは名唱だったと思います。そのあとの、パルジファルとの絡みの部分は、一転、魔性が良く出ていました。第3幕は、歌はないのですが、それまでには全くない朗らかな感じが、存在感を高めていました。
アンフォルタスのエギルス・シリンス氏、クリングゾルのロバート・ボーク氏、いずれも見事で、こんなに穴のない布陣も滅多にないのではないかと思いました。
さて、飯守泰次郎氏率いる東京フィル。これは私は絶賛です。なんと言っても、『パルジファル』の「響き」はこうだという感覚が確固としてあって、それが全曲を通して崩れなかったのが、実に見事だったと思います。よく、他の演奏で、管楽器、特に金管楽器が、うまく全体に溶け合っていないなあと感じる時があるのですが、今日に関しては、それが全然なかったです。中低音のホルンやチューバなどが実にまろやかに溶け合っていたうえ、そこから浮かび上がるフルート、イングリッシュホルン、ヴァイオリン、ビオラなどのソロも、絶妙な美しさを醸し出していたと思います。
飯守氏の指揮は、実にドラマティックで、非常にテンポの振幅があります。そのため、若干、歌と合わない瞬間が見られるにせよ、うまくはまった時の効果は大きなものがありました。また、動きの速いパッセージで、あまりレガートではなく、スタッカート気味にして、モチーフの意味を浮かび上がらせるのも、良かったです。劇場の音響をうまく生かして、ライトモチーフの意味というものが、新たに良く分かったような気がします。
オケの演奏でとりわけ印象に残ったのは、第1幕の「舞台転換」の後の悠然としたテンポで、こういうのが飯守氏は真骨頂を発揮するような気がします。(2年前の二期会の時は、むしろ後奏が印象的でした) あとは、何と言っても、「聖金曜日の音楽」、これは良かったです。一部、歌手との間が若干乱れた部分もあったのですが、オケのテンポも響きも得も言われぬ癒し感に満ちており、最後にヴァイオリンがのびやかに上昇していくフレーズのところは、涙に目が曇りました。もう、これが聴ければ、何にも要らない良さでしたね。(二期会の時は、聖金曜日の音楽は、演出上のこともあるのか、ここがもう一つだったような気がします。)
最後にハリー・クプファー氏の演出。思ったよりもオーソドックスだったなと。良い点を挙げると、照明と「光る床」(?)ですね。第2幕の愛の業火のイエローレッドであったり、第3幕のグリーンであったりと、この照明の美しさは、舞台で起こっていることの意味をシンボライズする上で、とても効果的だったと思います。基本的には、あまりゴテゴテさせずに、セリフに沿って、歌手の演技を支える感じでした。
以前からフィーチャーされていた仏教との邂逅という点は、はじめから視覚的に一目瞭然だっただけに、最後にもう少し何かがあるかな、と思ったのですが?・・・何かあったのかも?その点や、その他気づいたことは、もう一回見に行く予定なので、改めて詳しく書こうと思います、
ティトゥレルの長谷川顕氏やアルトソロの池田香織さん、小姓、騎士、花の乙女たちなど日本人歌手もとても良かったです。合唱も言うことありません。鉄壁の布陣でした。
演奏がこれだけハイクオリティだと、もう一度行けると思うと、実に楽しみです。
プログラムにも、いろいろ面白そうなことが書いてあるので、じっくり読んでおこうと思います。