小山由美さんのニコニコ・クンドリー

前々回も書いたように、月曜日は、サントリー・ホールに、メゾソプラノの小山由美さんの「サントリー音楽賞受賞記念コンサート」に行ってきました。
曲目がワーグナーであることももちろんですが、考えてみると何度も何度もオペラで彼女を聴いており、こうして、リサイタルに行ってみるのもいいものです。間違いなく、日本を代表するメゾでしょう。
ところで、全然どうでもいいことから入るのですが、1週間のうちに、新国、文化会館、サントリーと色々行くと面白いですね。音響は、オケとか座席とかが違うので一概に言えないのですが、一つ感じたことは「飲み物」です。休憩時間にワインを飲むことが多いのですが、そのサービスが違います。同じ500円(文化会館は600円)なのですが、サントリーホールは、グラスが大きくて、その分、量もいっぱい入っています。味も、グラスの形に影響されますからね。せこい話ですが(笑)、何かお得感があります。さすが、サントリー
さて、小山由美さんは、前半は、「ワルキューレ」から第2幕のフリッカの場面とツェムリンスキーの「メーテルリンクの詩による6つの歌」、後半は「パルジファル」第2幕からでした。
私、このクンドリーとパルジファルの場面が好きなので、連日これを聴けるとは幸せと言う以外の何物でもありません。また、前日のミヒャエラ・シュスターさんの歌い方と全く違っていたので、そのあたりもとても面白かったです。
小山由美さんは、「パルジファ〜ル!」と呼び掛けて登場して以降、常に笑顔を絶やさず、Ich sah das Kind...に入りました。いやあ、この歌の表現は素晴らしかったです。母性的なイメージが、ピタッとはまっているんですよねえ。zujauchtzte...と歌うところも、本当に赤ちゃんがはしゃいでいる感じです。この部分は、シュスターさんはわりと単調だったので、素晴らしかったです。
逆に、後半部分は、ちょっと弱く感じる部分がありました。例えば、シュスターさんがうまく表現していたdas Daseinなんかが、今ひとつだったような気がします。あと、カットがあったので、何かドラマがぶつ切れになっていました。テノールに成田勝美さん(こちらもいいパルジファルでした)が入っていたので、カットなしでやっても良かったと思うのですが?時間の関係だったんでしょうかね?残念です。
しかし、全体的にはとても満足で、素晴らしいクンドリーだったと思います。そのうえで、あらためて気付いたのは、この役って本当に難しいなあということです。
小山由美さんの雰囲気は「母性愛」のクンドリーなので、前半はとても良く分かるのですが、後半の物語は、ひたすら自分の救いに関心が行くので、ちょっと転換しにくいのかもしれません。シュスターさんの場合は逆で、その後の苦悩に重点が当たっているので、「母親」としての表現が難しいんでしょうね。
しかし、この「ニコニコ」は得難いものがあります。今回の彼女の受賞理由として、何よりも一昨年の日生劇場の「マクロプロス事件」のタイトル・ロールが挙げられているのですが、私も、この時の彼女はとても印象的で、とりわけ第2幕の幕切れでソファーに座って「ニコニコ」している彼女は忘れがたいものがあります。これは、男を手玉に取っている場面なので、ちょっと別の意味の笑顔なのですが。
彼女は演じる役を「人間的に共感できる」キャラクターにアレンジしますね。自分がその役になるというよりは、その役を自分にしてしまう人です。ネットを見ていると、彼女は、リートの世界からオペラに入ったように書いてあるので、そのへんと関係しているかもしれませんね。「リートを歌う時は、舞台上で裸の自分が現れてきてしまうのでこわい」というようなことを書かれていたように思います。
リートというのは、演技できないから、かえって怖いというのは良くわかるような気がします。ですが、私の見るところ、彼女はオペラの登場人物でもものすごく自分を投影してしまうので、「怖いながらもやめられない」ということかもしれません。
確か、2005年にクンドリーを日生劇場で演じていたはずなので、見ておけば良かったと、激しく悔やまれます。この年は大変な年だったので、オペラを見に行くどころではありませんでした。
演奏は、飯守泰次郎さんの東京シティフィルで、変な表現はなく、飾り気のない演奏をしていたところが好印象でした。
このコンサートの前半については、稿をあらためます。