ヴェーラ弦楽四重奏団のヤナーチェク「ないしょの手紙」とベートーヴェン
昨日は横浜のみなとみらい小ホールに遠出して、ヴェーラ弦楽四重奏団の演奏を聴いてきました。蒸し暑さでくたくたになりましたが、さすがに残暑もこれで終わりでしょうかね?
ヴェーラ四重奏団は日本のカルテットですが、実に素晴らしかったです。横浜まで行った甲斐がありました。初めて演奏に接したのですが、ベートーヴェンの四重奏曲を中心に、近現代曲を間に1曲はさむというスタイルでこれまでも演奏してきたとのことです。
最初はベートーヴェンの「6番」でしたが、これはあまり熱心に聴いたことがない曲でしたが、とてもいい曲でした。
とはいえ、お目当てはヤナーチェクの2番「ないしょの手紙」。私はよほどヤナーチェクがツボにはまるらしく、最初のヴィオラの「スル・ポンティチェロ」(駒の近くで弾く)の旋律だけで感動してしまいました。これはCDで聴いても、それぞれに違う音がするのですが、ライブで聴くと異様に感動します。ふと思ったのですが、ここでのヤナーチェクの意図というのは「一回きりの音を出す」ことにあるような気がします。「ないしょの手紙」の冒頭には「最初の告白」があるということでしょう。告白の声がうわずっているような感じです。同じことを次はチェロがやるのですが、また違うサウンドがします。更にはその後のヴァイオリンの十六分音符の分散和音も「スル・ポンティチェロ」なのですが、これも本当にいいです。ライブで聴くと、なぜか涙が出るほど感動します。しょっぱなだけで、こんなに感動する人も珍しいと思いますが、やはり冒頭が大事ですね。ここが勝負と言っても過言でないと思います。その点、今日の演奏はとても良かったです。第1楽章は、このあとアレグロに入ってからも奇跡的なほど完成度の高い音楽だと思います。最初の2つのテーマがリズムを変えながら何度も反復されるように思うのですが、まったくマンネリ感がありません。
しかし、そういう曲なので、かえって恐ろしい部分もあるように思います。というのは、これはひたすら燃焼し続ける音楽なので、どこかでいったんゆるむと、それを感じてしまいます。その点では、第2楽章の後半が、私としてはそんな印象を受けてしまったのがやや残念だったです。
でも素晴らしかったのは、第3楽章の中間で第一ヴァイオリンが高音で歌い出すところです。ここはこの曲の白眉の部分ですが実に良かったです。「気持ちのほとばしり」のようなものを感じます。作曲者の魂の純粋さを感じます。
第4楽章の、舞曲風の音楽が次第に現実感を失うようにフェードアウトしていく部分も行きとどいたデリカシーが感じられて浸れました。中間部のゆったりとした他愛もないダンス音楽が、喜びと悲しみをないまぜにしたノスタルジックかつノーブルな音楽に変貌していくのが、いつ聴いても魅力的です。『存在の耐えられない軽さ』の最後のほうの村の居酒屋のシーンというのは、この音楽をイメージしているようにも思えてしまいます。
ヤナーチェクファンとしては、感動する演奏でした。気持ちが感じられる演奏でした。実に良かったです。
そうやって休憩後にベートーヴェンに戻るのですが「8番って、こんなにいい曲だったか・・・」と思ってしまいました。特に第2楽章と第4楽章がよかったです。この頃のベートーヴェンの緩徐楽章は連綿と歌いますね。第4楽章のマーチもいいです。ややマーラーを予告しているような感じがしますがアイロニカルではないです。この頃のベートーヴェンというのは実にひたむきな感じがしますね。でも、演奏がいいので、そういうことに気づくのかも知れません。
みなとみらいの小ホールの音響はいいと思います。いい室内楽を聴くと、気持ちが爽やかになります。
ところで、今日新聞を見たら訃報欄に「クルト・ザンデルリンク」の名が・・・。98歳とのこと。大往生ですね。ご冥福をお祈りいたします。今日は彼のブラームス4番(1972年ドレスデンシュターツカペレ)を聴きながら書きました。
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