アンゲリカ・キルヒシュラーガーリサイタル(1)〜シューベルト〜

3月20日に、リサイタルに行く予定なので、予習しつつ、ついでに翻訳しました。
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_652.html
今回は、シューベルトマーラーブラームス、リストの歌曲で、聴きごたえ満点です。
今日は、シューベルトを一挙掲載の予定だったのですが、以前と曲目が変更になっていました。「魔王」に代わって「愛」と「フロリオの歌」になっています。なので、この2つは後回しといたしましょう。順番も、前に出ていた時と変わっているので、リンクしたプログラムは実際の演奏順の最終版かと思います。

AN SILVIA           シルヴィアに(シェイクスピアのドイツ語訳)

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Was ist Silvia,saget an,        シルヴィアはどんな娘だい?教えてくれよ。
Daß sie die weite Flur preist?      広い川面を眺めているあのシルヴィアは?
Schön und zart seh ich sie nahn,    あの娘が優美に近づいてくる・・・
Auf Himmelsgunst und Spur weist,   まるで天からの恩寵を受けたように、
Daß ihr alles untertan.         あの娘の前に全てがひれ伏している。

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Ist sie schön und gut dazu?       美しい上に気立てもいいだって?
Reiz labt wie milde Kindheit;      子供っぽい魅力を放つあの娘の眼に
Ihrem Aug' eilt Amor zu,       キューピッドが駆け寄って来て、
Dort heilt er seine Blindheit      今まで閉じていた眼を開かせれば、
Und verweilt in süßer Ruh.      愛の神はずっとその眼に居続けるだろう。

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Darum Silvia,tön,o Sang,      さあ、歌おうじゃないか。
Der holden Silvia Ehren;        優美なシルヴィアを讃えて。
Jeden Reiz besiegt sie lang,      この地上には、あの娘の魅力に
Den Erde kann gewähren:       勝るものはない・・・
Kränze ihr und Saitenklang!      彼女に花の冠を載せ、竪琴を鳴らそう!

Erlafsee D.586 Op.8-3        エルラフ湖(マイアホーファー) 
(Mayrhofer 1817)

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Mir ist so wohl, so weh           我が心は楽しくも悲しい・・・
Am stillen Erlafsee.            この静かなエルラフ湖のほとり。 
Heilig Schweigen             ヒノキのこずえに宿るは、
In Fichtenzweigen.            神聖なる沈黙。
Regungslos                蒼き膝もとは
Der blaue Schoß;             そよとも動かず、
Nur der Wolken Schatten flieh´n      ただ雲だけが流れゆく・・・
Überm dunklen Spiegel hin.        黒い影を湖面に映して。

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Frische Winde              爽やかな風は
Kräuseln linde              やわらかに湖水を
Das Gewässer;              波打たせ、
Und der Sonne              太陽の
Gäldne Krone              金色の光輪だけが、
Flimmert blässer.            ますます白くきらめき続ける。

Gretchen am Spinnrade   D 118    糸を紡ぐグレートヒェン(ゲーテファウスト第1部」より)
Meine Ruh ist hin,             安らぎは去り、
Mein Herz ist schwer,           心は重い。
Ich finde sie nimmer            もう二度と、二度と
Und nimmermehr.             安らぎを得られない。

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Wo ich ihn nicht hab,           あの人がいない世界は、
Ist mir das Grab,             まるで、お墓の中のよう。
Die ganze Welt              そんな世界は、
Ist mir vergällt.              ただいまわしいだけ。

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Mein armer Kopf             頭は
Ist mir verrückt,             おかしくなってしまい、
Mein armer Sinn             心は
Ist mir zerstückt.             千々に乱れる。

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Meine Ruh ist hin,            安らぎは去り、
Mein Herz ist schwer,           心は重い。
Ich finde sie nimmer            もう二度と、二度と
Und nimmermehr.            安らぎは得られない。

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Nach ihm nur schau ich          あの人を見つけようと
Zum Fenster hinaus,           窓から外を眺め、
Nach ihm nur geh ich           あの人に会おうと
Aus dem Haus.              家を出て行く。

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Sein hoher Gang,            あの誇らしげな歩み、
Sein' edle Gestalt,            気高い姿、
Seines Mundes Lächeln,         口もとに浮かぶ微笑み、
Seiner Augen Gewalt,           力強い眼のかがやき。

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Und seiner Rede             あの魔力を帯びたような
Zauberfluß,               話しぶり。
Sein Händedruck,            あの手の力、
Und ach, sein Kuß!            そして・・・あの口づけ!

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Meine Ruh' ist hin,            安らぎは去り、
Mein Herz ist schwer,           心は重い。
Ich finde sie nimmer           もう二度と、二度と
Und nimmermehr.             安らぎは得られない。

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Mein Busen drängt            胸はあの人のもとへ
Sich nach ihm hin,            引き寄せられる。
Ach dürft' ich fassen           ああ・・・つかまえて、
Und halten ihn,             抱きしめられれば。

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Und küssen ihn,             好きなだけ
So wie ich wollt',             口づけできれば。
An seinen Küssen            たとえ、口づけしながら、
Vergehen sollt'.              死んでしまおうとも。

Frühlingsglaube D.686 (Uhland)   春のおもい(ウーラント)

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Die linden Lüfte sind erwacht,        柔らかな風が目を覚まし、
Sie säuseln und wehen Tag und Nacht,    昼夜を問わず吹きすさび、
Sie schaffen an allen Enden.         世界の果てまで精気を吹き込む。
O frischer Duft, o neuer Klang!       ああ、何て爽やかな香り、新たな響き!
Nun,armes Herze, sei nicht bang!      弱き心よ!脅えないで!
Nun muss sich alles, alles wenden.      ものみな全てが変わる時なのだから。

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Die Welt wird schöner mit jedem Tag,    世界は日ごとに美しくなり、
Man weiss nicht, was noch werden mag,   どれだけ美しくなるのか想像もできない。
Das Blühen will nicht enden ;        花開くのは終わることなく・・・
Es blüht das fernste, tiefste Tal :      人里離れた谷底にさえ花が咲く。
Nun,armes Herz, vergiss der Qual!     だから弱き心よ!痛みを忘れて!
Nun muss sich alles, alles wenden.     ものみな全てが変わる時なのだから。

Versunken D.715 (Göethe)        耽溺(ゲーテ

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Voll Locken kraus ein Haupt so rund!     君の髪は何と豊かに波打っているんだ!
Und darf ich dann in solchen reichen Haaren  この豊かな髪に
Mit vollen Händen hin und wieder fahren, ぼくの手をいっぱいに沈めることができたら、
Da fühl ich mich von Herzensgrund gesund.  ぼくは心の底から癒されるのに。
Und küß ich Stirne, Bogen, Augen, Mund,   額と眉、眼と口に口づけすれば、
Dann bin ich frisch und immer wieder wund.  ぼくは癒されるが、傷つきもするだろう。
Der fünfgezackte Kamm, wo soll er stocken?  櫛よ!どこに止まっている?
Er kehrt schon wieder zu den Locken.     早く波打つ髪に戻って来い。
Das Ohr versagt sich nicht dem Spiel.    君の耳も遊戯を嫌がってはいない。
So zart zum Scherz, so liebeviel,      この戯れたくなるほど繊細で愛らしい耳は。
Doch wie man auf dem Köpfchen krault,   この手で君の頭を撫でることができたら、
Man wird in solchen reichen Haaren     君の豊かな髪を
Für ewig auf und nieder fahren       ぼくは、いつまでも撫でていたい・・・
Voll Locken kraus ein Haupt so rund.    豊かに波打つ君の髪を。

「シルヴィアに」とか「グレートヒェン」のようなポピュラーな歌以外も、みんないい歌ですが、今日の私のイチオシは「春のおもい」で、歌詞は、R・シュトラウスの「四つの最後の歌」のヘッセの詩とも似通っているような気がします。春に一斉に草木が芽吹くさまを歌っており、音楽の方は「タンタッタタンタン」というリズムで、2拍目が付点音符であることを除くと、「ロザムンデ」の有名なメロディーにどことなく似ています。素朴ながら実に美しいと思います。下記はボストリッジ。好みが分かれるかも知れませんが、Youtubeで聴いた中では一番しっくりきます。
http://www.youtube.com/watch?v=qKJnTCX6YEM&feature=related
今回のリサイタルは、マーラーブラームスもそうですが、民謡調とでもいうべき曲を多く扱っており、キルヒシュラーガーさんのリリカルな声の魅力が期待できそうです。シューベルトの中で異質なのは、最後の「耽溺」で、ややエロティックな歌詞でテンポも早い感じです。そんなにメジャーな歌ではないので男声でしか聴いたことがないのですが、女声だと、どんなニュアンスなのか楽しみです。
ところで、どうでもいい話ですが、「エルラフ湖」ってどこの湖か気になったのですが、今の表記は「エルラウフ湖」Erlaufseeで、ウィーンとリンツの中間あたりにありました。おや?と思ったのは、近くに「マイアホーファー」という地名もあるので、詩人自身が「ご近所さん」なのかも知れません。この詩人は、シューベルトと親交があったようです。

次回はマーラーです。