新国立劇場「トリスタン」演出面について

年末の公演を思いだしてみると、マクヴィガー氏の演出は、内実こんなコンセプトだったような気がします。あくまで私のイメージなので、意図は違うかも知れませんが。
・イゾルデは世慣れた「マダム」である。
・トリスタンは真面目な「従業員(=騎士)」である。
・イゾルデは、トリスタンが自分に気があることを知っているが、不幸になることは分かっているので躊躇っている。
・ブランゲーネは娘ぐらい齢が離れているので、怖がるブランゲーネをなだめる。(ここは出演者を見てそうしたのかも知れないのですが、けっこうオリジナルで良かったです)
・第1幕で薬を飲んだ後はオーソドックス。
・第2幕もオーソドックスですが、広々とした舞台は、なかなかグッドでした。
・二重唱以降も音楽に集中させる感じです。
・第2幕後半で特徴的なのは、マルケが痛々しいほどヨボヨボなことです。トリスタンは初めは反抗的態度でしたが、だんだん「社長」への忠誠心が戻ってくる。
・ところがマルケのモノローグの後、「あなたには分からないことです」と突っぱねると、マルケがずっこける。私は、このマルケの扱いもけっこう面白いと思うが、女性受けが悪そうではあります。
・第3幕は、トリスタンの悩みは、もっと動きがあっても良い所かも知れない。グールド氏のモノローグは、内心の苦悩をぶちまけると言うよりは、あくまで「優等生的」な感じ。歌自体はすごくきれいです。私としてはそういうのもありかなと思います。
・駆けつけたイゾルデは、いきなり抱きよらずに、徐々に感情をあらわにする感じ。この演技は初めは「ん?」と思ったが、なかなか良いような気がしてきました。その後のテオリン歌唱が、すごく良いから、かえってそう思わせるのかも知れません。
・「愛の死」を歌い終わったイゾルデは、その場で倒れたりはせず、しずしずと舞台の奥へ消えて行く。トリスタンは死んでいるのですが、観客から見ると、このイゾルデというのが生身の存在だったのか幻だったのか、よく分からなくなるような感じです。その意味で、全体的にそうなのですが、あまり細かいことをやらずに、コンセプトと構成と照明とで見せている演出というのを最後に浮き彫りにしたような感じです。

私が思うに、演出も含めて、今回の公演で全体的に伝わってくるのは「孤独感」または「無常感」のようなもので、その意味では実に渋いプロダクションだったのではないでしょうか。
あまり華やかな要素が無いので、見る人によって好き嫌いがけっこう分かれたのではないかと思います。私は、このワビサビ系(?)トリスタンは、わりと気に入りました。どちらかと言えば、男性好みのする演出だったかと思いますが、いかがでしょうか。