トリスタン予習企画(4)〜生まれた時の記憶

いよいよ明日になりました。今日は、第2幕でマルケが歌った後にトリスタンが歌いだし、印象的なモティーフがついている所からです。ここで、トリスタンは自分の出生を思いだし、生まれる前の世界への憧れを歌います。

Dem Land, das Tristan meint, トリスタンが言っているその国とは
der Sonne Licht nicht scheint: 太陽の光が射さないところ・・・
es ist das dunkel それは暗い
nächt'ge Land, 夜の国。
daraus die Mutter その国から母は
mich entsandt, 私を送り出した。
als, den im Tode その時、母は死にながら(alsは英語のwhen。denはhim。彼、つまり自分自身のこと)
sie empfangen, 私をみごもり、(最後にhatteが省略されています)
im Tod sie liess 死にながら(liessは英語のlet。den(彼=私)を光にたどりつかせた。
an das Licht gelangen. 光のもとへと送り出した。
Was, da sie mich gebar, 私を産んだとき、(daもwhenです。最初のWasはWhat。イコール2行目のdas Wunderreichです
ihr Liebesberge war, 母の愛の隠れ家だったのは
das Wunderreich der Nacht, 夜の奇蹟の国で、
aus der ich einst erwacht; その夜から私は、あの時、目ざめたのです。(einst=かつて=生まれた時
das bietet dir Tristan, あなたにトリスタンを贈ってくれた奇蹟の国・・・(bieten=提供する、差し出す
dahin geht er voran: その国へと、ご案内するのです。(dahinのdaは「das Wunderreich」その奇蹟の国
ob sie ihm folge ついてきてくれますか?(ob=英語のwhether。副詞節なので動詞は接続法第1式になります
treu und hold --- 誠実に、愛らしく・・・
das sag ihm nun Isold'! イゾルデ、さあおっしゃってください!(dasは2行前のob以下のこと。nunは「さあ!」と促す気持ち(英語のnowも同じか?)


これと同じモティーフが第3幕のトリスタンの長いモノローグの最初でも流れますが、やはり同じテーマを歌っているのです。

(Ich war, 私がいたところ・・・)(次行から同じモティーフが流れます
wo ich von je gewesen, そこは、私が、かつて居て、(最後にbinが省略されている過去形です
wohin auf je ich geh' そしていずれまた旅立って行く、
im weiten Reich 世界を覆う夜につつまれた
der Weltennacht. 広大な国。(Weltennachtは作者の造語で直訳は「世界の夜」)
Nur ein Wissen たった一つの知識のみが、そこで
dort uns eigen: 我々に与えられる・・・(eigen=所有する。〜のものである。セミコロンは「すなわち〜」を意味します。)
göttlich ew'ges しかし、その知識とは神々しくも永遠に続く(最初の「しかし」は余計だったかも?)
Ur-Vergessen! 原初の忘却なのだ!(これも造語。忘却=死ということだと思います
Wie schwand mir seine Ahnung? その忘却への予感はなぜ私から消え去った(「sein」は忘却を受けていると思います
Sehnsücht'ge Mahnung, その代わり、憧れに満ちた警告、(=「愛」?)
nenn' ich dich, とでも呼ぶべきものが、
die neu dem Licht 私をなぜ新たに、
des Tags mich zugetrieben? 昼の光のもとに押しやったのだ?
Was einzig mir geblieben, ただひとつ私に残されたもの、(最後にistが省略。Was=次行のLieben
ein heiss-inbrünstig Lieben, 死の歓喜のおののきから生まれた
aus Todes-Wonne-Grauen 熱く燃えさかる愛情が、(改めて見ると、ここ誤訳のような気がします。「死の歓喜のおののきから駆り立てる」か?
jagt's mich, das Licht zu schauen, 光を見ろと私を駆り立てるが、
das trügend hell und golden その光は欺くように明るい黄金色で、
noch dir, Isolden, scheint! なおも、あなた、イゾルデを照らしているのだ!

このモノローグはここから延々と続くのですが「愛は死よりも強いので、愛がある限り死ぬことすらできない」というのがテーマだと思います。「愛の死」がキーワードのように言われるのですが、トリスタンのほうは何としてもそれに抵抗しようとしているように、セリフを読む限りは思えてなりません。グールド氏のトリスタンはどうでしょうかねえ?