METライブヴューイング「ボリス・ゴドゥノフ」(とちょっと「ラインの黄金」)

金曜日に、映画館にMET「ボリス」を見に行きました。このオペラ自体、初めて見たのですが、見て良かったです。主演のパーペ氏にこれまで特に関心が無かったのですが、これは迫真の演技と歌唱ですね。とりわけ第1幕のモノローグが良かった。
第1幕が終わった所で、ゲルギエフのインタビューがあるのですが、淡々とポイントをついたことを言いますね。第2幕から音楽が変わると言ってましたが、なるほど第2幕は、第1幕と全然違います。一言で言えば、イタオペみたいになるんですね。ドミトリーは、とてもうまい。カーテンコールでも大きな拍手を受けていたと思います。相方のマリーナも良かったと思います。
なお、その前に演出家もインタビューを受けていて、一見うさんくさい感じ(失礼?)ですが、言っていることがとても良くわかりました。実際、演出は、特に奇をてらうこともなく、オーソドックスでしたが、舞台上にでっかい年代記を広げて統一性を持たせていたり、わかりやすい良い演出だったと思います。
第3幕は、ボリスが死んで幕・・・のほうがドラマティックに思えるのですが、あえて民衆をもう一度出して、最後は聖愚者のモノローグで終わるという所に意味があるんでしょうね。
ボリスは同情的に描かれているので、観客も「いい政治を行えば、帝位簒奪も許されるのではないか?」と思いそうになるのですが、やはり許されないという所にテーマがあるのかも知れません。「目的は手段を正当化しない」ということかと。ライブビューイングのキャッチコピーで、「ドストエフスキーを思わせる世界」というようなセリフがあったのですが、そう考えると確かにそんな気がします。
気になったので調べてみると、この作品って、ドストエフスキーが「悪霊」を書いたのと同じ頃に成立してるから思いっきり同時代ですね。皇帝アレクサンドル2世に対するテロ事件が頻発している頃です。アレクサンドル2世も「自分は農奴解放したり、善政をしているのに何故?」と思っていた人なので、なんかボリスとかぶるような気がします。実際の皇帝は、ドストエフスキーの死の直後に、実際テロで暗殺されてしまうのですが。この辺りの事情は『アレクサンドル2世暗殺』という本に詳しく書いてあります。
話がそれましたが、ゲルギエフの指揮も相まって、いい演奏だったんじゃないかと思います。(とはいえ初めて聴いたので良く分からないのですが)。ただ映画館なので、音はあまり良くないですね。この点は、家で聴いたほうが、よほどいいんじゃないかと・・・。終わってから、通常オペラ上演を見るよりも疲れてしまった気がしたのですが、どうもそれが原因かも知れません。やっぱり生演奏がいいです、当たり前ですが。(私は映画をあまり見に行く気がしないのですが、それはもしかしたらサウンドのせいかもしれないと思いました)
とはいえ、面白かったので、また別の作品を見に行きたいですね。安いですしね(笑)。METは、ネームバリューもありますが、一生懸命営業活動している所がエライと思います。(ただ通常の日本人の感覚だと、興醒めな面もあるかも知れません)
さて、「ラインの黄金」についても、ちょっと。一週間前に見に行ったのですが、「う〜ん?」と首をひねって何も書けませんでした。そもそも「ラインの黄金」だからな・・・という部分もあるのですが、それにしても?と思う部分もあり・・・。演出のコンセプトが良く分からないんですよ。超ハイテク舞台装置(「マシン」というらしい)なので、それ自体は面白い部分もあります。特に、第2場と第3場の舞台転換で、ヴォータンとローゲがニーベルハイムに降りて行くシーンなんか、「こりゃオペラ版『マトリックス』だよ…」と呆れてしまいました。けなしているようですが、これはけっこう凄かったので、いまだに目に焼き付いています。
でも全体を通して見ると、私としては「だから何なの?」な感じがするんですよね・・・。『策士、策におぼれる』みたいな感じでしょうか。全然入り込めなくて困りました。特に気になるのは、古代風の衣装と、やってることのハイテクさがマッチしてなくて、どんなストーリーを作ろうとしているのか分からないんですよ。ストーリー自体への解釈とかこだわりが感じられないんですよね・・・。どうせなら、もう完全に『マトリックス』的な未来ストーリーにしちゃったほうが良かったんじゃないでしょうかね。まあ「ラインの黄金」だから、と思いたいところですが、この調子で「ワルキューレ」もやりそうな気が・・・。う〜む、大丈夫かなあ?