10月16日「トリスタンとイゾルデ」inびわ湖ホール

 上記日程で聴いて来る予定なのですが、最大のお目当ては、イゾルデを歌う小山由美さんです。彼女は「トリスタン」だとブランゲーネを歌う役回りだったので、そもそもイゾルデを聴けるとは思いませんでした。私は以前からこの方のファンなのですが、聴きに行くと、オルトルートだったり、フリッカだったり、はたまたゲシュヴィッツ(「ルル」)だったり、エミリア・マルティ(「マクロプロス事件」)と、渋い役どころが多いです。メゾですから、どうしてもこうなります。
 ただ、イゾルデは、低い声域が多いので、十分聴けるでしょう。4月にクンドリーを聴いて思ったのですが、彼女は温かみを感じる場面の方が良さそうなので、「トリスタン」の場合、第1幕のような激しい場面より、第2幕以降がいいのではないかと思います。
 トリスタンのピアース氏の声の感じは、ちょっと私の好きなタイプと違うような気もしますが、まあ、先入観持たずに聴いてみます。
 あとは沼尻氏の指揮に期待です。この作品は何と言っても音楽です。「愛の二重唱」以降とか、「愛の死」とか、普通にいい所を聴かせてほしいなあと願っています。びわ湖ホールは初めて行くので、それも楽しみです。
 さて、それとあわせて、ずっと思っていた「トリスタンとイゾルデ」の翻訳を修正しました。第3幕は、そんなに修正しませんでしたが、第1幕は相当修正しました。最初に訳した作品だったため、直訳にこだわり過ぎて日本語らしくない表現が顕著だったので、読みやすくしてみました。第1幕は、ワーグナーの中でも「ワルキューレ」第1幕と並んで、最も緊張感あふれる展開になっているのですが、どうもそれと翻訳とがミスマッチなように感じていたのです。一気に読めるような感じを目指してみました。うまく行っているかはわかりませんが。(第1幕↓)
http://www31.atwiki.jp/oper/pages/46.html
 第2幕はそんなに直してないのですが、重要なところを変えています。一つは「ブランゲーネの歌」で、これは初めの訳があまりに無粋でしたので全面的に修正しました。あとはトリスタンが「愛の死メロディー」を歌う部分の歌詞「ganz uns selbst gegeben」を前回は次のLiebeにつなげて「ぼく達自身の隅々にまで行きわたった愛」とオリジナルな訳をしていたのですが、どうもこの表現は慣用表現のようなので「自分の全てを捧げて」とオーソドックスな表現に戻しました。こういう所で個性を出す必要はありませんでしたね。
また、最初のほうのイゾルデの情熱的な台詞も色々考えて、より良さそうな表現にしてみました。ただ、その後の「愛の二重唱」までの場面と「マルケの歌」は、チェックし出すとキリがなさそうなので、敢えて、あまり直しませんでした。(第2幕「愛の二重唱」以降↓)
http://www31.atwiki.jp/oper/pages/50.html
 それにしても、第1幕の「以前は、イゾルデの愛により、病気から回復することを望んでいた」という台詞に見られるように、私が思うにはトリスタンは「愛によって生きたい」と思っているはずなのです。(これは普通です。)それなのにイゾルデの運命に巻き込まれ、「死」にはまりこむという点に、この物語の悲劇性があると思います。第3幕でも「愛のために死ねない」にもかかわらず、結局イゾルデを見た途端に死んでしまう、という彼の運命には何か考えさせられるものがあります。イゾルデは、あまりブレないのですが、トリスタンのほうは実に複雑な心理だと改めて思います。