新国立劇場「アラベラ」(2)〜演奏と歌手〜
今回、シルマーさんの指揮と東京フィルの演奏は、今年この劇場で聴いた中(「ジークフリート」「黄昏」「影のない女」)で、私にとっては一番良かったです。シルマー氏の重厚な音づくりが私の趣味にぴったりなのかもしれません。オケがすごく良かった・・・というのは、金管が音を外さないからなのです。「影のない女」も「黄昏」も、これがしょっちゅう気になったのですが、今回はそれがなく、すごく安定していました。ホルン系の楽器って、ものすごく難しいんでしょうが、聴く側からすると、これはすごく大事です。そんなわけで、第3幕の前奏曲なんか、ほんとに良かったです。やはりライブで聴くと、味わいが違いますね。時々シルマー氏が立ち上がって、頭がピットから飛び出してくるのが面白かったです。1列目の前のほうだったのですが、私の趣味だと、この劇場は1階で聴くのが一番いいです。音が、溶け合って下から響いて来て、歌手の邪魔をしない感じがします。
歌手で特筆すべきは、何といってもタイトルロールのミヒャエラ・カウネさんですね。期待通りで、良かったです。声は想像がついていたのですが、かなり長身の方でした。舞台映えします。ズデンカのラスムッセンさんが小さいので、コントラストが目立ちます。この二人が歌う第1幕の「姉妹の二重唱」は良かったです。やっぱり、これもライブで聴くべきですね。あと、第3幕の最後の「良かったですわ、マンドリカ」からの場面ですが、これはカウネさんの歌唱が始まる前に、前奏の段階でジーンときました。そういう意味でも、オケはすごく良かったと思います。
演奏について、あえて難を言えば、第2幕の幕切れなど、もっと盛り上がってもいいような気がしましたが、シルマー氏の指揮は、いつも重厚で渋いので、あまりそういう効果を狙わない特徴があると思います。このへんは、好みの問題かも知れません。
ただ、カウネさんは、あえて言えば、若干情感にとぼしい感じが無きにしもあらず・・・かも。このへんルチア・ポップさんが愛聴番になってしまったので、比べると、という程度の話です。
マンドリカのトーマス・ヨハネス・マイヤーさんですが、声はわりと渋みのある感じで、私は好きです。姿も野性的で、いい雰囲気でした。ただ、少し声量が足りない時があったかも?ヴァルトナーの妻屋さんも良かったです。マンドリカからお金をもらって喜んでいる時のスキップがうまかったです(笑)。あえて言えば、全編にわたって、もっと笑いがとれるはずなのですが、今一つだったのは、彼がどうのというより演出の課題ですかね。奥さん役の竹本さんも雰囲気があるので、ギャグ系はもっと洗練できるかなという感じ。
あとは日本人でいくと、ミッリの天羽さんは、壮絶コロラトゥーラを難なく歌っていて、感心しました。これはなかなか大事な役どころです。もうちょっと、きれいなコスチュームにしてあげたかったところですが。歌わない花売り娘みたいな子たちの衣裳のほうがきれいだったので、彼女もこれでいいのに?と思いました。
あとエレメル伯爵の望月哲也さんはかなり良かったと思います。この方はかなりいいですね。ドミニク、ラモラルの両伯爵(萩原さん、初鹿野さん)も良かったので、そういう意味では、すごく全体的な歌唱のレベルが高かったと思います。それにしても初鹿野さんのカーキ色の制服は、演出上1930年代の設定ということなので、よく映画とかで出て来る日本の参謀本部員みたいな感じですが、これは狙っていたんですかね?(そんなはずはないか?)
マッテオのオリヴァー・リンゲルハーンさんは、長身でスタイルが良くてなかなかいい男でした。ただ、何となく気弱そうな感じなので、この役にはまっているような感じでした。第3幕のアラベラとの掛け合いも、なかなかいい歌唱だったと思います。
それにしても、このオペラで本当にいい歌がついているのは、やはりアラベラだと思います。音楽的なことだけではなく、台詞でもそうなっているような気がします。その意味では、今回はそれを再確認したという感じですね。「今まで気がつかなかったが、ここはいいぞ」というのは、あまり無かったです。でも、これは贅沢な悩みかも知れません。思い出すのは、第1幕の幕切れの「アラベラのモノローグ」など、やっぱりアラベラの歌ばかりですね。