ドミンゴとシュテンメのトリイゾCDを聴く(第2幕まで)

この前、お店に行ったら輸入盤をお安く売っていたので、思わず購入し、何度か聴いてみています。

アントニオ・パッパーノ指揮イギリス王立歌劇場「トリスタンとイゾルデ
トリスタン:プラシド・ドミンゴ、イゾルデ:ニーナ・シュテンメ、ブランゲーネ:藤村実穂子、マルケ王:ルネ・パーペ

タイトルロールの二人以外にも、マルケ王のパーペ、ブランゲーネの藤村実穂子さんがしっかり脇を固めている感じです。
いつも思うんですが、イギリスって「トリイゾ」をやるには由緒正しい地ですよね。何と言っても、アイルランドからコーンウォールイングランドの南西部)に旅する話なのですから。
そのせいかどうか、この「トリスタン」は、あたかもイギリスの白夜で繰り広げられる話とでも言うんでしょうか?「真夏の夜の夢」風というか非常に軽やかな演奏です。私の意見では、この曲「あっさり」でもいいと思うんですよ。敢えて濃厚にやらなくとも音楽自体が語ってくれるんじゃないかと思うのです。ですから、その点では問題ないのですが、残念なのは「響き」に厚みがないことですかね。同じことの裏表かも知れませんが・・・。
ゾルデのシュテンメさんの歌唱は、ディクションがきれいで、丁寧な歌いぶりに好感が持てます。常に感情を抑制しつつ、ここぞという時に爆発させるあたりが「奥ゆかしいお姫様」な感じです。特に第1幕は、かなり控え目な歌いぶりです。このあたり、最近愛聴しているテオリンさんのイゾルデとだいぶ違っています。テオリンは「暴れまくり」(笑)です(ちなみに第1幕では舞台でも暴れている)。私は特に第1幕は「感情爆発型イゾルデ」が個人的に好き(これはむしろ正統派か?)なもので、この幕はテオリンさんがいいと思います。
ただ特筆すべきは、「イゾルデの呪い」モノローグ中の「イゾルデが剣を取り落す場面」のシュテンメさんの歌唱ですね。ここは、音楽が静かになる聴かせどころなので、全身をそばだてて聞いてしまいますが、さすが素晴らしい歌唱です。そして、モノローグが終了する「Rache!Tod!」の叫びも良いですが、ここでもなお感情を抑制しているように私には思えます。基本的に「暗い声」のシュテンメさんは、わりと古風なイゾルデに聴こえるのですが、どうでしょうか?
それに対して、ドミンゴ・トリスタンの登場シーンは、突然、明るい人が出て来るので「あれっ?」な感じ(笑)。決してワーグナーに向かないなどとは思いませんが、歌声が明るく、節回しとかが何となくイタリアっぽいので、気になる方は気になるのかも知れません。第2幕でも、明るい感じがしますね。歌そのものは聴けるのですが、雰囲気は少し違う感じです。
特筆すべきは、ブランゲーネの藤村実穂子さんです。EMIの輸入盤で出演している上、ブランゲーネは全然端役じゃない「主役級脇役」ですから素晴らしいことです。たしか、ニルソンが「ブランゲーネの歌手は、時としてイゾルデから主役の座を奪おうとする」と書いていたと思うのですが、音域が近いのでそうなりがちなのだと思います。
もちろん、藤村さんにそんな意図は無いと思うのですが、この第1幕の場合、ちょっとその要素がありますね。思うに、彼女のほうが透き通った声なので、よりお姫様っぽく聴こえてしまう現象です。思うに、よほどの「ブランゲーネ歌い」でもないと、なかなか難しいところです。
ただ、第2幕の「ブランゲーネの歌」の藤村さんは、本当に素晴らしいです!思わず「おおっ・・・」と唸ってしまいました。極端な話、これを聴いただけでも買った甲斐がありました!!
(テオリン・イゾルデのバイロイトDVDでは、なぜか、この「ブランゲーネ・リート」がさっぱりなのです。ミシェル・ブリートさんは、他はそんなに悪くないのですが。すごく残念です。)
パーペのマルケ王は、繊細な感じです。ディクションが非常にきれい。特に変人っぽくはなく「普通にいい人」な感じですかね。
このコヴェントガーデンは、ちょっと優等生すぎる感じですかね。スタジオ録音のせいというのもあるかも知れません。ライブの熱気が無いし、主役も二人とも感情抑制できる「冷静なカップル」という感じです。もちろん、それはそれなのですが、第1幕に関してはバイロイトDVDのほうが、私の好みには合っていますね。
シュテンメさんは、ライブだともう少し「暴れている」ような気がするので、一概には何とも言えません。ただ「声質」というのは趣味なので、私の場合、両者を比べると、テオリンさんのほうが好きです。(というか、ここ数十年で一番好きかも知れない)ただ、テオリンさんの弱点は、彼女は低音域が苦手なのと、そのせいかディクションがイマイチに感じられることですね。一長一短ですねえ。
ところで、今夜は、ネトラジ(ORF)で深夜1時からウィーン国立歌劇場のライブで「タンホイザー」があります。指揮はウェルザー・メスト、そして4月に東京文化会館で素晴らしいクンドリーを聴かせてくれたミヒャエラ・シュスターさんが出演しているようです。彼女はヴェーヌスでしょうね。(そうすると、出番がちょっとしか無いのが残念です。)ORFを試してみると、どうも放送が途切れがちです。大丈夫かな?