デンマークの「ワーグナー・ガラコンサート」

さる方の影響で、よくデンマークのコンサートをチェックしているのですが、22日に「コペンハーゲン・リング」にも出演しているアナセン、ビリエル、レスマクの3人が出演する「ワーグナー・ガラ・コンサート」があったので聴いてみました。
オケはオールボー交響楽団、指揮者はグレゴル・ビュール(Gregor Bühl)という方で、いずれも全然知らなかったのですが、素晴らしい演奏だったと思います。地方オケでこれだけのレベルとは、デンマークって、なんかすごいですね。(スカンディナビア諸国は総じてレベルが高いような気がしますが。)
この「ワーグナー・ガラ」で特筆すべきは、選曲の面白さです。ワーグナー10作品を、ほぼ作曲年代に沿って順繰りにたどっていくというのが、まず楽しいのですが、メジャーな曲あり、意外な曲ありということで、組合せの妙が楽しかったです。日本でも、こういうのやってくれないかなあ。ワーグナー・プログラムってあるのですが、メジャーどころが多すぎるので、かえって面白くない面があります。こうやって、全作品から取り上げると言うのは、実に意味のあることだと思います。
休憩をはさんで、前半に前期3部作と、トリスタン、マイスタージンガー。後半に、「指輪」と「パルジファル」という構成です。
歌手別に分けると・・・
スティグ・フォー・アナセン
「聖杯の語り(ローエングリン)」「ヴァルターの第1幕の歌(マイスタージンガー)」「ジークムントのヴェルゼ・クライ(ワルキューレ第1幕)」「ジークフリートのノートゥングの歌」「パルジファル第3幕の最後のアリア」
ステン・ビリエル
「ダーラントのアリア(オランダ人第1幕)」「マルケ王の嘆き(トリスタン第2幕)」「アルベリヒの呪いの歌(ラインの黄金)」
スザンナ・レスマク
「ヴェーヌスのアリア(タンホイザー第1幕)」「エルダの歌(ラインの黄金)」「クンドリーの母子のアリア(パルジファル第2幕)」
あとオケ単独で「オランダ人序曲」「ヴァルキューレの騎行」「葬送行進曲」

アナセンを、これだけ多く聴けたのは大収穫でした。しかも、本番が始まる前に、CDで出ているシェーンベルクグレの歌」からの抜粋まで聴けたし、大満足です。彼の歌は、曲の魅力を再発見させてくれますね。声が澄み切っているのがいいのはもちろんですが、クリアなディクションによる「節回し」がいいと思います。ローエングリンの「聖杯の語り」は、まさに「語り」ですね。みんな歌っているように思えますが、案外「歌」ではなくて、まさに「名乗り」なのかもしれません。実は、今まで誰が歌っていても、今一つ釈然としないものがあったのですが、これはヒントになりました。今まで気付かなかったことを「わからせてくれる」のは有難いことです。
これはメジャーな曲でしたが、次のマイスタージンガーは「懸賞の歌」かと思ったら、第1幕というのは、いいハズシ方です。私は、この歌が好きで、要は、なんかアヴァンギャルドでヘンなんですよ。わざと、そういう風に作曲しているんですね。ただ、私が、マイスタージンガーの音源をそんなに漁っていないせいもあるのか、あまりいい解釈を聴いたことがありません。アナセンは、すごく聞かせてくれます。彼が歌うと、不思議なことに、オケの音もクリアに聴こえるような気がします。お互いが邪魔し合わずに共存するので、すごくいいサウンドになっています。これはフシギな現象ですが、科学的に説明可能かも知れません。放送なので、少し濁ってしまうのが残念ですね。
いつも「なぜこの歌を聴いてハンス・ザックスは感銘を受けるのだ?」と思うのですが、この歌唱なら分かるような気がします。この後の「指輪」「パルジファル」もすごく良かったですが、今回はこの二つが聴けたのが、とても良かったですね。リリカーリッシュ・ヘルデンとしての本領発揮です。
ところで、このコンサートのおかげで、ビリエルさんもまた既成観念と別のところで歌っている人だということが良く分かりました。オランダ人のダーラントって、いかにもオヤジっぽく歌うのが普通ですが、ビリエルは、ものすごく若々しく、はずむように歌っているのでビックリしました。次の「マルケ王」も若いのですが、彼が歌うと「同年代の友達に彼女を奪われた」みたいに聞こえます。案外そういう演出があってもいいかも知れません。最後のアルベリヒは、もう、お手のものって感じですね。こちらは、なぜかピタッとアルベリヒに同化していますね。
レスマクさんは、最初のヴェーヌスは、私はイマイチだったのですが、後半のエルダはさすがですね。もう、のっけから気品があって、ホーッとします。最後にクンドリーで登場したのには、びっくりしました。なんか彼女の見かけとクンドリーが結びつかないので・・・(笑)。ところが、歌い出すともっとビックリしました。クンドリーが、パルジファルのお母さんの話をして、パルジファルを誘惑する場面なのですが、こりゃもうホントに、情感あふれる歌唱です。
そこでふと気が付いたのですが、彼女は基本的に「お母さん役」なんですね。なるほど。だから、この歌は、はまるのでしょう。考えてみると、エルダも「お母さん」ですからね。ジークフリート第3幕のヴォータンとのアリアも、娘のブリュンヒルデを心配しながら歌っているので、それがいいんですね。
オケは、すごくうまくて、「葬送行進曲」が良かったです。これは「タメ」の音楽ですから、ウインドのソロがゆったりと歌うところと、トランペットの「剣のモティーフ」がしっかりしていると名演になります。これは名演と言っていいと思います。
あと、このコンサートには司会者がいて、おそらくオペラの内容を語っているのですが、いつも思うのですが、デンマーク語の朗読って、意味はわからないのですが、何か「聴けます」。詩を読んでいるような感じで、独自の「朗読文化」があるような気がするんですよね。「葬送行進曲」の後に、なぜか笑いが起こるのですが、たぶん、その後にアナセンがジークフリートとして歌う順番になっているので、「なんで生きているの?」みたいな話になっているのではないかと推測します。こういうのって楽しいですね。オペラ普及の一環なんだと思うのですが、選曲と言い、なんか変に迎合的でないところがイイ感じです。
休憩をはさんで3時間の演奏をカットしないで、そのまま放送しているのも好印象ですねえ。もちろん録音したので、少し公開してみてもいいかも知れません。
ただ、きっと「さる方」(笑)も録音していると思うので、そちらからもアナセン歌唱が公開されそうな気がいたします。

それにしても、ネトラジ聴いていると、北欧にしょっちゅう縁のある私です。この前も、スウェーデン放送響で、ニールセンの4番「不滅」をやっていて、指揮がユッカ・ペッカ・サラステだったので迷わず聴いたのですが、さすがに名演でした。その前に、シベリウスの「タピオラ」も演奏されたのですが、こちらはもう一つでしたね。サラステは、フィンランド人ですが、なんかシベリウスよりニールセンのほうが相性がいいような感じがします。
今日は、ハノーファーの「ヴァルキューレ」の生中継があるようなので、これも聴いてみたいと思います。あまり夜ふかししない私なので録音するのですが、11時からなので第1幕ぐらいは生で聴けるかな?