バラクの妻を考える

オペラ対訳のコメントでは、皇妃が主人公であると書いたのですが、じゃあ他の人は?というと、やはり「バラクの妻」が大事でしょう。
というか、ほっとくと、こっちが主人公になってしまいそうです。これは、ニルソンが当たり役なのか、Youtubeを見てると、しょっちゅうニルソンが出てきます。その中で、一番私がいいと思うのは、これですね。
http://www.youtube.com/watch?v=ngJ3xEw-6J0&feature=related
ストックホルムの演出とありますが、演出もいいですねえ。人造美少年(?)が面白い。一回倒れるので手を差し出すと、ムクッと起き上がって、ギャーとなります。これは、実はまったくト書き通りなのですが、ト書き通りでも色々バリエーションがありますから、こういうのはト書き通りがいいと思う今日この頃です。
今回、ゲッツ・フリードリヒ演出ウィーン国立歌劇場のDVDを買ったのですが、このシーンに関しては、美少年じゃなくて「おじさん」なんですよね・・・。そこは、どうもピンときません。この後の伏線になってるので、話がよくわからなくなってしまいます。

ラクは、自分の兄弟ばかりか隣人の子供の面倒まで見る信心深い「チョーいい人」なのですが、そういう「世間的にいい人」が妻にとって、いい夫か?というのは、必ずしもそうでない所があります。「私を犠牲にして、いいカッコしないでちょうだい」と思うというのは、一般論としては良く分かるような気がします。最後の場面も貼ってみます。
http://www.youtube.com/watch?v=lOraQt705FY
そんなわけで、最終場面では、奥さんはマジで頭に来て「いつものん気にしてんじゃねえよ」(意訳)とか歌い出し、「あんたの留守の間、あたしは別の男と遊んでたのよ」「あたしは母性を捨てたのよ」とウソを言います。
こういう夫婦喧嘩の展開というのは、いかにもありそうですが、この「ウソをつく」という点で、バラクの妻がバラクを本質的には嫌いではないことがわかるような気がします。
ラクのほうは、ここで初めて「このやろ」となるのですが、いつも穏やかな人だけに、この逆上ぶりは妻にとって意外らしく、それがいい結果をもたらします。
「・・・次第に彼女の姿は物凄い変化をしていき、死人のように蒼ざめてはいるが、浄化された面持ちとなる。かつてしたことのないような表情で、バラクと、バラクの振り上げた死の剣に身を差し出し・・・」とあるので、ここも本当はぜひともト書き通りに「物凄い変化」を見せてほしいところですね。
この段階で、この二人の関係はハッピーエンドが確定です。問題は、皇妃です。皇妃がこの場面をずっと見ているということが、オペラ全体の展開としては重要なんだと思います。そのことを観客に意識させるべきでしょう。「愛が欠如している自分たち(皇帝と皇妃)は、実はこの人たちよりも劣っている」ということを痛切に意識するということですね。
だから、第2幕の幕切れで、全員が沈んでいく中で、皇妃と乳母だけが高いところに登って行くという指定になっているのは、工夫次第では、上記のことを表現するのにおあつらえ向きかも知れません。
ところで、さっき貼った動画は、そんなに悪くないと思うんですが、バラクが剣を振り上げた時、バラクの妻がバラクのほうを向いていないのが気になります。要はオペラだからなんですが、それならバラクが前(または横)に来ればいいのになと思いますね。
その点、さっきのゲッツ・フリードリヒは、ここはさすがしっかりしてますね。あと、皇妃の歌のところで、きちんと皇妃を映しているのもマルです。
http://www.youtube.com/watch?v=BfP1QOsIwx4&feature=related
私の解釈だと、幕切れで、さらに皇妃をもう一度浮かび上がらせると、話がわかりやすくなるような感じがします。そういう演出無いのかな?
でも、そもそも、皇妃をフィーチャーした動画は、バラクの妻に比べると少ないですね。やっぱり、皇妃をどう位置づけるかが難しいような気がします。