コペンハーゲン・リング「黄昏」レビュー

コペハン・リングの「黄昏」です。何度も見ているので、なかなかレビューしませんでした。
・最初のノルンの場面
この場面は、なかなかアイディア賞ものです。ノルンは「現在・過去・未来」(なんか日本の歌謡曲みたいですが♪)なので、このようにキャラクター分けしてあるとわかりやすいですね。(ラインの乙女やワルキューレはキャラ分けできるんだろうか?)しかも、オケ、指揮のショーンヴァントさん、歌手がとてもいいです。ここは聴かせてほしい場面ですから。
ところで、演出家ホルテンは、何かの記事で「(私の演出は)イロニー(アイロニー)ではない」みたいなことを言っていて、実際、リアリスティックな演出がほとんどなのですが、この場面の最後のほうでは、持ちものが「昔のリング演出の小道具」とか「ワーグナー関連書籍(コジマの肖像などがあるので、それと分かる)」だったりするので、これは、ちょっとしたイロニーですね。でも、嫌味ではないですね。その前にノルンが「これからどうなるのかしら?」と問いかけているので、このへんは、オールド・ファンのほうが、そのおかしさを良く理解できるかもしれません。
・ラブラブ二重唱
 例によって芸が細かいですね。ただ、ここはもう、アナセン、テオリンを聴けるだけで満足なので、細かくレビューする必要ないでしょう。「ジークフリート」の第3幕と、この場面は、オケの演奏も歌唱も素晴らしく、それだけで聴けます。このプロダクションは、いろんな意味で「微笑みを絶やさないリング」なので、こういう部分がとりわけ楽しめます。この演出では「グラーネ」は特に表現しません。ホルテンなら、しそうですけどね。これ、今までの流れでいくと「ハト」でいいと思うんですけどね。
・「ライン旅行」の音楽
 ここでは幕を閉め切っていますね。実はト書き通りですが、これは舞台転換のための幕ですから「葬送行進曲」で舞台を見せなくするのとは、ちょっと意味合いが違うような気がします。だから、舞台転換さえできれば、何をやってもいいんでしょうね。この前の新国ではいろいろやってましたが、案外何もやらない方がいいかも知れません。これ、ファンは当たり前のように聴いてますが、ひどく前衛的な「ヘンな」音楽です。これって、実は単独でオケ曲としてやらない方がいいんじゃないんですかね?私、ワーグナーファンになる前に、「ワーグナー管弦楽曲集」でこれを聴いて「何だ、こりゃ?」と思っちゃいました。ということは、その頃は、まだしもヘンじゃない真っ当な少年だったということかもしれませんが(笑・・・)。今の若い人って、まずDVDから見られるからいいですよねえ・・・。それだと誤解しなくてすみます。(←いや、演出によってはやはり誤解するか?)
シェロー演出DVDを見ると、ブーレーズの指揮するこの曲って、すごく名演のような気がします。誰も、そういう評価していないような気がするので不安なのですが・・・。この音楽があるおかげで、そのあとのギービヒ家の音楽の「気の抜けた空虚な舞曲」が際立ちます。
ところで、よく考えてみると、このRheinfahrtって、一般に「ラインへの旅」と訳すけど、これ実は「ラインの」旅ですね。英語ではRhine journeyですもんね。その後のジークフリートの再登場のト書きって、船に乗って来るから、むしろこれ「ライン河下り」なんじゃないでしょうか?(旅行会社のパンフみたいですね。せっかくなので、この際、「ロマンティック・ストリート」も行きたくなりますね。そんな英語あるか不明ですが。)
「ラインへの」は違うような気がするので翻訳を直したいのですが、どんな訳にしようかな?
・ギービヒ家の場面
 ホルテン演出にしては、ちょっと「フツー」すぎるかな?という印象。グンターは、ちょっと野性的すぎるような気が(笑)。でも歌はいいですね。この前の新国もそうでしたが、私のイメージでは、グンターの押し出しが立派すぎ。この人のセリフを読むと、ほんとうに情けない人物ですから。だから、もっと、おろおろしていてほしい。まあ、どうでもいいっちゃいいですが。
 部屋にお酒とタバコが置いてあるのですが、この辺になると、私でも銘柄が分かりますね。この「リング」は「お酒」をうまく使っているのですが、「お酒」って日常的なものだから、そのへんがうまいなと思います。地元の人だと、昔の銘柄も分かるんじゃないでしょうか。
 グートルーネも、雰囲気がフツーですね。一般的には美女といっていいんでしょうか?(←こんなことを書くと、もしやまたヘンさが際立たないかとおそれますが。)まあ、この人はフツーでいいんでしょう。歌のほうもフツーにうまいです。
 ハーゲンは、第1幕はそんなに悪くないんですけどね。ピストルをもてあそんだりしていますが、兵器オタクではなく「作戦オタク」的なイメージが私にはあるので、イメージとだいぶ違います。まあ、これは解釈の問題です。
 「忘れ薬」を飲む前のジークフリートの行動は面白いです。いないのでメッセージを残すんでしょうか?そのあとの深酒は例によって「免責」か?
 やっぱり、全体にこの場面はフツーですかね。もちろん、かなりレベルの高い要求なのですが。この場面で、私の好きな演出はシェローで、人物像が自分のイメージにマッチしているのと、舞台の高い円柱などが、なんか「中身ゼロの空虚さ」を感じさせてくれるんですよね。
・ヴァルトラウテの語り
 ここ大事なシーンなので、ヴァルトラウテがうまくなければなりません。アネッテ・ボッド(?)という方なのですかね。この人はいいです。安心して聴けます。演技も、ヴォータンのことを語って泣き出し、ブリュンヒルデが背中をさする所がいいです。テオリンさんの歌唱は、ここも素晴らしい。新国で「ジークフリートの愛・・・」を聴いたのを思い出して、あらためて感銘。ただ、あのときは、ヴァルトラウテがよろしくありませんでした。
・最終場
 ジークフリートが帰って来るところからは、テオリンの歌が圧倒的。それが第1幕の最後までずっと続きます。この表現は、私にとっては、長いファン生活でベストです。人のブログを見ると、この方の弱点というのをきちんと書いていらっしゃる方もいて、全く同感なのですが、それを勘案してもダントツ。発音はビブラートが邪魔をするので、ネイティブだと気になるかもしれませんが、そこまで気になるほどなんですかね?
・・・と思って聴いてみると、確かに、ときどき気になりますね。でも、これ、「音楽的ドラマ表現」を重視するから、こうなるのではないか?素人なので、よく分からない点があるのですが、彼女の歌唱は「話し言葉としてフレーズが生きている」感じがしますね。あまり聴きたくない歌詞ではありますが、第1幕の最後のセリフなんかが、特に他の歌手との違いを感じます。新国でも「すっごくいいな」と思いました。(←でも、あの演出だから逆につらくなった)
仮にもっと欠点があったとしても、それを十分覆い隠してしまうほどの歌唱だと思います。(いずれにせよ、日本人なら個々の発音はそんなに気にならないと思いますけど。)
それにしても、ディクションに注意を払って、注意深く聞いてみると、アナセンは、ものすごくきれいな発音だと思います。これだけ明快な発音ってワーグナーの理想じゃないだろうか?この人、そういう評価されてないんですかね?
第1幕だけで、けっこうな分量になってしまいました。稿を改めます。