お正月に振り返るニールセン生誕150年

新たな年を迎えました。昨年は公私とも多忙、かつ気力が湧かないということもあり、ほぼ休止状態でありましたが、今年はどうなることやらという感じです。できれば、多少なりとも記事を書ければと思っているところです。
さて、昨年2015年はデンマークの生んだシンフォニスト、カール・ニールセンの生誕150周年(誕生日はほぼ半年前の6月9日)に当たり、ヨーロッパではそれなりの記念行事やコンサートがあったようですが、日本では当然のことながら、ほぼ何の盛り上がりもなかったわけですが、そんな中にも、いくつか特筆すべきことがありましたので、それを箇条書きにしてみます。(CDは必ずしも昨年リリースされたものではありませんが)
(書籍)
・「フューン島の少年時代」(カール・ニールセン自伝、長島要一訳、彩流社
カール・ニールセン自伝 フューン島の少年時代: デンマークの国民的作曲家

作曲家自身が村のペンキ職人(兼楽師)の家の子供として生まれ、音楽院に入るべくコペンハーゲンに旅立って行くまでの幼年期・少年期を描いた自伝。デンマークでは自伝文学の名作として知られているようであり、今回本邦初翻訳で読めるのは大変有難い。単純に伝記として面白く読めるのは勿論、随所に鋭い人間観や独特のユーモアが展開されており、非常に興味深かった。巻末に訳者の長島氏が書いた伝記と作品解説も付されており、こちらも参考になる。

・「ポホヨラの調べ」(新田ユリ著、五月書房)
ポホヨラの調べ 指揮者がいざなう北欧音楽の森 《シベリウス&ニルセン生誕150年》

指揮者として北欧音楽を多く指揮している新田ユリさんが、シベリウス、ニールセンをはじめ、北欧音楽の名作を語る本。この本で新田さんが論評している作品は、全て自らが指揮した作品と言うことで、指揮者の観点から見た得がたい論評となっていると思う。日本シベリウス協会会長として、シベリウスの作品の方に紙幅を多く割いているのは当然のこととして、ニールセンの交響曲は「1番」「2番」「4番」の3曲のみであるのは若干残念だが、その内容は長年のニールセンファンである私も知らなかったことが多く、非常に示唆的であった。巻末の北欧音楽CD評も大変ためになる内容。ニールセンについては、ユッカ・ペッカ・サラステフィンランド放送響の「1番・2番」を取り上げているが、この中で新田氏の師匠であるオスモ・ヴァンスカのニールセン音楽に対するこだわりは「表情の明晰さ」であると書いておられる。その後に新田氏の言葉で「ニルセンの交響曲は演奏者、特に指揮者を裸にすると思っている。よそ行きの顔では演奏できない」と書かれているのだが、これこそニールセン音楽に対する最大の賛辞ではなかろうかと思ったりした。

(CD)
サカリ・オラモ=ロイヤル・ストックホルム・フィル「4番・5番」「1番・3番」
ニールセン : 交響曲第4番 「不滅」 , 交響曲第5番 (Carl Nielsen : Symphony No.4 'The Inextinguishable' , Symphony No.5 / Royal Stockholm Philharmonic Orchestra , Sakari Oramo) [SACD Hybrid] [輸入盤]

生涯最高の名作である「4番・5番」のカップリングとあって試しに購入してみたが、ニールセンの解釈に新境地を打ち出すような演奏と言えるのではないかと感じた。と言っても、特にひねっているわけではなく、従来の演奏で「ここはもっとこうなのではないか?」などと感じてきた箇所を説得力を持って説明していくような意味であり、その意味では、オーソドックスな解釈を徹底的に詰めることによって到達した地平のようにも思える。私のようなマニアックなファンには垂涎の一枚。特に5番の解釈が素晴らしい。「1番・3番」も同様に素晴らしい。

パーヴォ・ヤルヴィ=フランクフルト放送交響楽団交響曲全集」
ニールセン:交響曲全集

これは直近リリース。ドイツのオケのニールセン録音と言うのは、実は非常に珍しいが、演奏は思っていた以上に素晴らしい。サカリ・オラモストックホルムが「主情的」とすれば、こちらは「客観的」でメカニカル。オケの楽器(とりわけ木管楽器)の音色が粒だって聞こえるほか、ドイツのオケらしく低音から積み上げる音作りによるサウンドもゴージャスに感じられる。パーヴォ・ヤルヴィの解釈も穿ったものではなくストレートで、ニールセンの交響曲の持つパワーをうまく引き出している。実は私自身の好みは、前出のサカリ・オラモのような繊細な解釈にあるが、仮にニールセンに突出した関心がなくとも、オーケストラファンにとって買って損はないディスクだと思う。その意味で、ニールセン音楽の普及度を増すことに貢献すると思われる「ありがたい」ディスクである。

・ダグラス・ボストック=ロイヤル・リバプール・フィル「交響曲全集」(ニールセン10CDコレクション所収)
CARL NIELSEN/ THE DANISH SYMPHONIST

6つのシンフォニー、3つのコンチェルトをはじめ、ニールセンの代表作ほか名作「木管五重奏曲」、全てのピアノ曲などを10枚のCDにまとめ、何と1600円(!)で販売している。アマゾンで発注しようかと思っていたところ、年末に渋谷のタワーレコードで発見したので迷わず購入。交響曲は1999年から2003年までの録音ということで、やや時期が古くなるので、とりあえず安いからという理由で購入してみた。聞いてみて思ったのは、演奏は良い意味で「素朴」というか「普通」なのだが、この音楽に寄せる指揮者や楽員の熱気のようなものが確かに感じられて好ましい。交響曲以外の作品も多く聞くことができるので、こちらも売り切れにならないうちにオススメしたいディスクである。アンネ・エラン(Anne Øland 発音が分からない)の弾くピアノ作品も、テクニック的にも、作品解釈的にも、実に優れているように思われ、彼のピアノ音楽(全くポピュラーではないが)に関心のある方にもオススメである。

(サイト)
http://www.carlnielsen.org/en
デンマークの生誕150年公式サイト。昨年繰り返し見たが、伝記的な部分はもちろん、作品ページでは、一つ一つの作品について、音源を聴いたり、何よりもスコアを直接参照できる(しかも見やすい)点が素晴らしい。