「アラベラ」のレビュー

新国立劇場のR・シュトラウス『アラベラ』に今日行ってきたので、その感想です。
ひときわ良かったのは、第3幕の大団円でアラベラがズデンカに語りかける所、ここがオケ・歌手とも、とてもバランスが取れた良い響きで堪能しました。いい演奏をライブで聴くと、ここはやはり素晴らしい音楽だということを改めて実感しました。理屈抜きで本当に良い音楽です。
アラベラのアンナ・ガブラーさんは良い歌手だと思います。本日は、若干中音域が弱いような気がしましたが、声量があり、全体的にはいいなと思いました。その上で、あえて言えば、声がちょっと硬質なので、むしろブリュンヒルデとかだとヴィヴラートも活きてきて、とてもいいのではないか、と雑念が浮かんでしまいました。プログラムのキャスト紹介欄を見ると、『指輪』ではグートルーネを歌っているとのこと、なるほど確かにグートルーネだと合いそうです。(それってホメ言葉か?という気もしますが・・・。考えてみると、昨年の「東京春祭」マイスタージンガーのエーファ役でしたね) 
一方、マンドリカを歌うヴォルフガング・コッホ氏は、昨年のバイロイトのヴォータン。さすが、なかなかの貫録です。よく透る声で、その中にも父性的な温かみが感じられます。
上記のようなわけで、わたし的には、最後のアラベラとマンドリカの場面は、むしろ『ヴァルキューレ』の幕切れの父娘のシーンだとピタリとはまるのではないか、と思いました。こうなると、雑念を超えて妄想ですが・・・(笑) 
とはいえ、第2幕の最初のアラベラとマンドリカのシーンは、なかなか良かったです。ここはあまり妄想が浮かばず、素直に『アラベラ』でした。
さて、キャストは全体にバラつきがない安定感がありました。ズデンカのアニヤ=ニーナ・バーマンさんは、のっけから可憐でひたむきな感じがよく伝わって来て、イメージ通りのズデンカな感じ。長身で、とても舞台映えのする方でしたね。この方は、これからの有望株という感じでしょうか。
マッテオ(マルティン・ニーヴァル氏)も、安定感がある歌いぶりです。特に第3幕は、とても良かった。
ヴァルトナー(妻屋秀和氏)、アデライーデ(竹本節子さん)は、もうこの作品は慣れたもの。この二人が安定していたので、演奏全体の厚みが増して、すごく良いです。
エレメルの望月哲也氏は、望月氏はいいと思うのですが、演出が私のイメージとちょっと違う。日本人がやる以上、仕方がない部分もあるかも知れないですが、演出の関係で、余計に貴族っぽいムードが出ないような感じ。同じことは、ドミニク(萩原潤氏)とラモラル(大久保光哉氏)にも言えるかも。この3人は、かなり損をしているような。
一方、フィアッカミッリの安井陽子さんは、素晴らしい美声です。第2幕の幕切れは、ミッリの存在感が大きいので、印象が残ります。冒頭のカルタ占いの与田朝子さんも良かったです。
指揮のベルトラン・ド・ビリー氏とオケ(東京フィル)は、う〜ん、もう少しかな?という感じ。第1幕最後のアラベラのシーンとか、もっとよくなると思うのですが。ただ、最初に書いた第3幕の大団円シーンは、ピタリとピントが定まってくる感じで良かったので、「終わりよければすべて良し」でしょうか。歌手も含めて、すべて良かったので、ここ集中的に練習したような気も? オペラで十分満足するのは難しいですが、今日はそこが楽しめたので、気持ちよく終われました。
やはり、この作品は良いですね。娯楽の中にも、しんみりとする所もありで、なおかつ響きはドイツ・ロマン派なので(わたし的には)落ち着きます。
ふと思ったのですが、R・シュトラウスの響きはワーグナーと異なるのですが、例の第1幕の幕切れのアラベラが思い悩むところは、半音階っぽくてワーグナーっぽい感じですね。だから私の好みに合うのかなと思いました。一方、今日良かった第3幕のシーンなんかが、シュトラウス後期のベストサウンドの一つかなと思います。