「ラインの黄金」レビュー

アンナ)今日、東京文化会館で東京春祭「ラインの黄金」を聴いてきました。いかがでしたでしょうか。
トマス)久しぶりにワーグナーを聴いたので、基本的にはそれだけで満足ですね。直感的に一番良かったのは、アルベリヒ(トマス・コニエチュニー氏)ですね。第4幕でアルベリヒが呪いをかけるところが、全体にすごく良かったですね。ここ、ストリングスのトレモロに乗せてアルベリヒが歌うのを聴いていると、「オランダ人」の登場のアリアとよく似ていますね。
アンナ)ああ。そこは、私は気づいてましたよ。愛とか呪いとかいうテーマが共通しているからですかね?
ヨハン)・・・。二人ともマニアックすぎですよ。ぼくもコニエチュニー氏は熱演だったかと思います。ただ、第1場は、わりとサラッとしていたような気が。
トマス)そうですね。もっとも、これは演奏がサラッとしていたような。マレク・ヤノフスキ氏の指揮は、基本的にあまり感情移入しないというか、速いテンポで、どんどん進んでいきます。
アンナ)基本、インテンポですよね。
トマス)趣味の問題なのですが、私の求めるワーグナーとはちょっと違うかなと。でも、これは予想通りという感じです。特徴的なのは、ローゲの動機を、スラーではなく、一音一音明確に弾き分けることですね。こういうのは、明らかにコンセプトがあることですね。だから、趣味の問題とは思うのですが、私の好みはちょっと違うかなと。
ヨハン)でも、もたれないで、サクサクッとやるのは、ぼくには結構いい感じでした。
トマス)そうですね。逆に、インテンポで効果的なこともあって、それは第3場の最初のほうのアルベリヒとミーメの掛け合い。ニーベルング族のモチーフの機械的なリズムに乗って、どんどん進んでいくのは、なんかとてもこの音楽の本質に即しているように思えました。
アンナ)たしかに、この即物的な感じは、新鮮でしたね。ミーメ(ヴォルフガング・アブリンガー=シュペルハッケ氏)も良かったと思います。出番が少なかったのは残念ですが。
ヨハン)出番が少ないと言えば、フリッカのクラウディア・マーンケさんも良かったですね。フリッカなのが残念(?)というか。
トマス)ヤノフスキ氏の指揮は、うねるようなものが全くないというか、新即物主義的(?)ワーグナーというか。以前、指輪をレコーディングした時から、こんな感じですから、そういう意味ではすごく一貫しているというか。いや、予想していたとおりではありますが。
アンナ)明確にそういうコンセプトなので、趣味の問題ですね。
ヨハン)ドンナーの「ヘダー、ヘドー」から始まる幕切れの音楽は良かったですよ。
トマス)ここは、素直にいい音楽ですよね。例の「剣のモチーフ」の登場の場面のヴォータン(エギルス・シリンス氏)の歌唱も良かったです。
アンナ)シリンス氏のヴォータンは、全般に無難な印象を受けましたね。
ヨハン)ローゲ(アーノルド・ベズイエン氏)はいかがでしょう。
アンナ)こちらも無難な印象ですかね。そんなにキャラを際立たせる感じではないですけど、ストーリーの主導権を握る役としての感じは出ていました。
ヨハン)エルダのシーンは、
トマス)ここは良かったですね。エルダ(エリーザベト・クールマンさん)が客席のほうから歌っていたのは、4階席から聴いていた私には、ちょうどいい感じでしたし、低音のブラスばかりになるオケも雰囲気がすごく出ていた感じです。
アンナ)「すべてのものは、みな終わる」との託宣ですね。
トマス)そのあとのヴォータンの恐怖が尋常ではないですよね。根源的な「不安」というものを音楽化している感じ。ここは、今日すごく印象的でした。これを聴いただけでも、来た価値があったなと。暗いですね(笑)
アンナ)わかります。何か深淵に突き落すような力が、やはりワーグナーの音楽にはあるんですよ。
ヨハン)本日、ファゾルトを歌う予定だったアイン・アンガー氏はキャンセルで、フランク・ヴァン・ホーヴ氏に。ファフナーは韓国のシム・インスン氏。
アンナ)フライア(藤谷佳奈枝さん)とラインの乙女(小川里美さん、秋本悠希さん、金子美香さん)だけが日本人歌手でしたね。
トマス)ドンナー(ボアズ・ダニエル氏)とフロー(マリウス・ヴラド氏)も安定感がありました。ドンナーは例の雷の場面、フローはフライアが帰ってくる場面と、それぞれ見せ場は一つずつだけですけどね。
アンナ)フライアが戻ってくるシーンの演奏は印象的でしたね。
トマス)私も、ここはとても良かったと思います。ライブで聴くと、いつも気に留めないところが、演奏もあって印象的に感じられますね。