ラインの黄金対訳完成

ラインの黄金」訳了です。
第3場http://www31.atwiki.jp/oper/pages/178.html
第4場http://www31.atwiki.jp/oper/pages/179.html
ずいぶん長いことかかりましたが、振り返ってみると、第1場がとにかく進まなくてサジを投げていたのですが、第2場のローゲが登場するあたりになってから、締切効果(?)もあってはかどりました。
第1場が進まなかったのは、原語が独特なマニアックな言い回しをしているのもあるのですが、ラインの娘たちとアルベリヒの掛け合いがどうもしっくり来なかったことがあります。まだまだとは思いますが、多少は読みやすくなっていればと思います。
さて、今回訳した第4場の大詰め、剣のモティーフが華々しく初登場したあとヴォータンが雄々しく歌いますが、ここはハンス・ホッターの歌唱で聴くと、「おお・・・神だ・・・」と思ってしまいます。私の愛聴盤は、例によってクナッパーツブッシュの1958年バイロイトライブですが、この演奏は忘れがたい絶品だと思います。(逆に言えば、それ以外のヴォータンって、まるでイイトコなしなのですが。)
ところが、そのあとの幕切れ直前で、マーチみたいなリズムに乗って、もう一度、剣のモチィーフが出てきますが、これは何だか色あせて聞こえます。その理由の一つは、最初の登場の調性はハ長調だったのに、2回目は変ニ長調(ヴァルハラ=神々の調性)で、リズムも硬直的なことにあるかと思います。
ハ長調という点についていうと、第1場でラインの娘たちが「ラ〜インゴルト!ラ〜インゴルト!」と歌う直前の「ラインの黄金のモチーフ」が、まさにハ長調で「ソッソ・ドー・ソソ・ド・ミ・ソー」なのですが、この「剣のモチィーフ」の「ソドー・ドー・ミ・ソー・ド・ミー」と明瞭に呼応していることが分かります。
このハ長調の世界が肯定的な音楽であるのに対して、変ニ長調の幕切れの音楽は、神々の空しい栄華を揶揄するかのようにウインドもストリングスも3連符を繰り返して、チューバやバスなどがオクターブ超の和音を上に行ったり下に行ったり、6台ものハープもアルペッジョを奏でたり、と音楽と騒音とのグレーゾーンを狙っているかのようです。ただ、これはこれで、それなりにいい音楽に聴こえるところが凄いところです。
基本的には風刺なんだと思いますが、ここまで大規模に「諷刺」をやった人というのもいないのではないでしょうか?
逆に、先のつかの間のハ長調の一瞬というのが、『ヴァルキューレ』以降のシリアスな世界を照らし出す唯一のともしびとなるとも言えるかも知れません。
それにしても、指輪を貫くライトモチーフは、さきほどの例のように「ドミソだらけ」というのが、いくつもあるのですが、「ラインの黄金」は冒頭の前奏曲から始まって、とりわけ頻出するので、それがこの作品に一種「原始的」なクオリティを与えているようにも思えます。