新日本フィル定期演奏会(アルミンク指揮、清水和音ソロ)ブラームス・ピアノコンチェルト2番、シューマン4番

トマス)本日は、クリスティアン・アルミンク指揮する新日フィルの定期演奏会を聴きに行ってきました。プログラムは、ブラームスの第2ピアノコンチェルトとシューマンの「4番」です。ブラームスがほんとうに美しかった・・・。こういうのを聴くと「生きてて良かった」という気持ちになります。ソロは清水和音さん。
ヨハン)ほんとによかったですねえ。シューマンもライブで聴くと、やっぱりすごくイイですね。
アンナ)シューマンもいいですが、私もやっぱりブラームスがすごく心に沁みました。ドイツ・ロマン派の音楽の神髄ですよね。
ヨハン)これ、ブラームスにしては明るい音楽ですよね。素直に楽しめます。トマスさんは、以前もこの曲について語っていましたよね。お気に入りの音楽なんですね。
トマス)大好きなんですよ。今日は、アルミンク氏の指揮する新日本フィル清水和音さんの息がバッチリ合っていて、記憶に残る素晴らしい演奏だったと思います。この曲って、全編、美、美、美・・・の連続だと思います。そう思いつつ、「美」って何だろうという考察に耽ってしまいました。それぐらい、いい体験でした。
アンナ)そこまで好きというのもスゴイですね(笑)。でも、分からなくもないですね。ほんとに美しいパッセージの連続ですもん。
トマス)通常、クラシック音楽の楽曲って、どこかで「ゆるむ」瞬間があると思うんですよね。でも、この曲って、それがないと思うんですよ。特に第1楽章が凄くて、まったく「ゆるまない」んですよ。「美しいパッセージをひたすら連続させれば美しい楽曲になるのか?」・・・通常答えはノーですよね。でも、この曲の場合、それが「イエス」なんですよ。 こんなのアリか?と思ってしまいます。
ヨハン)なるほど。ぼくもこの曲は、ほんとに、いい曲だなあと思います。リリシズム、パッション、自然への讃歌などあらゆる感情が表現されていて、でも、それがすべて幸福感に包まれているという感じです。
アンナ)そうですね。たしかに「美しい」って何なんでしょうかね?
トマス)聴きながら思いついたことでしかないのですが、この曲の美しさというのは古典的な「和音」の美しさなのかなあ・・・と。ブラームスは、古典的な和音の中でどこまで行けるのか、そして新しい和音はどこまで使うべきなのかという課題を、この曲で徹底的に追及しているように思います。
ヨハン)「和音」と言えば、ピアニストも「和音」さんでしたが(笑)
トマス)あっ、そうですね。言われて初めて気づきました。面白いですね。もちろんピアノは「和音」が表現できる楽器ですからね。
アンナ)だから、いわば一台でオケと匹敵する性能があるわけですよね。この曲でいうと、アルペッジョがほんとに美しい。のっけからしてそうですもんね。これはピアノならではです。
ヨハン)ホルンのあの雄大なテーマから、そこに入っていくんですもんね。同じように、展開部の最初の部分のアルペッジョも胸を打つ美しさです。
アンナ)最初のところは、そこから情熱的な「小カデンツァ」が始まるのも素敵です。
トマス)そうですね。この曲は、ほんとうに、どこをどうという気が起きないぐらいに、美しいシーンの連続なんですが、今日の演奏は、その「流麗さ」をすごくうまく出していましたね。
ヨハン)第2主題の「センチメンタル感」が良かったですよね。
トマス)そうですね。ブラームスは、シンフォニーの「2番」でも、「ヴァイオリンコンチェルト」でも、こういうセンチメンタルテーマを使うのですが、中でも、この曲のテーマはイイですよね。今日の演奏では、ほんとに幸せそうにタップリ歌っていました。さすがだなあ、と思いましたね。
アンナ)そのあとのコデッタの、ピアノソロが奏でる情熱的なパッセージがいいですよね。「ダンダカダンダン・ダンダカダンダン」と始めるリズムは、むしろバルトークみたい(笑)
ヨハン)ここ、イイですよね。一度聴いたら忘れられない音楽。提示部のコデッタでは、ウインドのトリルが、かなり現代的なサウンドでそれを受け取ります。
アンナ)再現部は、そこをストリングスがキッパリと受けて、ピアノの華麗なパッセージに引き継ぐんですよね。ここ大好きなんで、内心キャーって叫びたくなります(笑)。
トマス)ほんとですよね。ここ、やみつきになります。ブラームスの音楽の凄みが最大限に現れているんじゃないでしょうかね。ここはむしろ古典和声の枠の中にあるのですが、やはりいい実演を聴いていると、すごい革新的なサウンドにいっぱい気が付きます。例えば、第1楽章のピアノが入った2回目の提示部などに、一瞬目もくらむような感じでウインドの荒削りなストロークが入ってきたりします。淡い水墨画の中に、突然濃い墨がカッと入れられるような感じ。ほんとに素晴らしいですね。
アンナ)現代的と言えば、コーダの一番最後のほうで、ホルンが悠然とテーマを吹き鳴らしつつ、ピアノが一気に落下していきます。ここ、すっごい音楽ですよね。
トマス)まったくそのとおりですね。知と情がせめぎあっているような。ライブで聴いていると、信じられないぐらい美しいです。一瞬気を失いそうになるぐらい素晴らしかったです。
ヨハン)第2楽章のスケルツォもいいですよね。すごくデモーニッシュな感じなので、いつものブラームスのイメージと違います。
アンナ)そうですよね。すごいインスピレーション、かつシンコペーションがすごいです。まさに悪魔が乗りうつってるような感じですよね。
ヨハン)トリオのフォルテのままの弦楽合奏もいいんですよ。
トマス)今日の演奏は良かったですよね。清水和音さんのピアノとストリングスとがピッタリ合っていました。もっとも、この曲の場合、「合わないように合っている」ということなのですが。ブラームスの書いた最も素晴らしいスケルツォだと私は思います。
アンナ)第3楽章は、チェロのソロが本当に美しかったです・・・。なんか今も耳に残ってて。ほんと、いいですよね。
ヨハン)同感です。このテーマが、中間部で「エレジー」として出てくる所もすごく良かったですよ。
トマス)やはり、こここそ、ライブで聴く醍醐味ですかね・・・。私、この楽章を聴いていると、本当に幸せを感じるんですよ。最初のテーマが戻る箇所は、「エレジー」でもいいですが、私には「忘れてしまった夢」として聴こえます。哀しみと幸せが同時に襲ってくるような感じです。
アンナ)幸福の中で泣いている・・・というようなイメージですかね。本当に美しいです。チェロのソロが泣けました。チェリストがすっごいカッコイイし・・・。
ヨハン)・・・。
トマス)ほ〜っと溜め息をついてしまうぐらい、すごい美しかったですよね・・・。これって、たぶん本場のウィーンっ子が聴いても唸るぐらいだったと思いますよ。エレガントの極みです。
ヨハン)終楽章は、ちょっと「流している」ような音楽ですよね。
トマス)そこに、ブラームスの洒脱な面が表れているんですよ。この趣向も結構ファンだったりします。
アンナ)そうですね。最後に「インテルメッツォ」で締めるというのは楽しいですよね。
ヨハン)なるほど。シンフォニーの「2番」では、3楽章だったものが、この曲では最後に出ているんですね。
アンナ)この曲は、ブラームスの作品の中で最もハッピーな感じがしますね。聴いていて、微笑ましくなります。そう考えると、シューマンの「4番」も「微笑ましい気分」になる作品ですかね。
トマス)同感ですね。シューマンは、ニ短調という、マイナーコードの作品ですけど、すごく幸せな気持ちになりますね。アルミンク氏の解釈は、第1楽章のコデッタのテーマをテンポを下げてゆっくりとやる所が良かったです。
ヨハン)終楽章の直前の、闇から光を求めるようなハーモニーの連続が印象的でした。ベートーヴェンの「運命」を思わせるような・・・。
トマス)そうですね。まさに、その趣向なんですよ。でも、そこを、本当に作品の神髄に迫るような形でできる演奏だから、そう感じるんですよね。「幸せの中で泣く」というのが、本当にドイッチェ・ロマンティークの神髄だと思います。
アンナ)今日はとてもいい演奏が聴けて、本当に良かったですね。