ヴァルキューレ対訳完了〜オペラ対訳雑談〜

ヴァルキューレの対訳を完了しました。
http://www31.atwiki.jp/oper/pages/97.html(今回アップしたのは、第3場なので、このページの後半です)
午前中にアップしたのですが、ほぼ1年取り組んできたことが終わったので、なんか感無量でした。
今日は爽やかな気候の、いい日でしたね。
タワーレコードで、ルチア・ポップさんの4枚組CDを見つけたので、迷わず購入してしまいました。
Die Unvergessene Lucia Popp
この中に、ドボルザークヤナーチェクの歌曲が入っており、聴いたことはあるのですが、CDを持っていなかったのです。
さっそく聴いてみると・・・素晴らしいです。特にヤナーチェクが最高に素晴らしいですが、ドボジャークはもちろん、コダーイプロコフィエフもすごい。
そんなわけで、「ワルキューレ」完了記念と合わせて、ワイングラス片手に「一人打ち上げ」をしながら書いています。(特にワーグナーとは関係ないBGMですが・・・)
最近、対談形式が書きやすいことに気付いたので、またそれで行きましょう。

ヨハン)「ワルキューレ」完成おめでとうです。最後のシーン、初めて聴いたのですが、なかなか感動的ですね。娘をお嫁に出すお父さんのような気持ちになってしまいます。
アンナ)ヴォータンって、けっこうカッコイイ感じです。そして、ファザコンブリュンヒルデ。なんかアブナイにおいがしますね。でも、この父娘の思いの深さに、なんか心をくすぐられてしまいます。
トマス)たしかにあやしいです。第1幕では兄と妹、第3幕では父と娘が、アブナイ関係になってしまいます。この話は、それはそれで面白いのですが、私が翻訳しながら一番のキーワードだと感じたのは、「自由」(frei)という言葉です。この言葉こそが、この作品を解くキーワードですね。
ヨハン)最後のほうでヴォータンは、「この花嫁を手に入れる者は、神である私より、もっと「自由」でなくてはならないからだ!」と叫ぶように歌いますね。
アンナ)ブリュンヒルデが、ジークムント達のことを想って語る「ああ・・・最も自由な恋愛が直面した恐ろしい苦悩・・・」という言葉も印象的です。
トマス)・・・お二人ともさすがですね・・・。そこまできちんと読んでいただけると、大変うれしくて、訳者冥利に尽きるというものです。私が思うには、この「自由」こそが、この作品に込めたワーグナーの中心テーマだったと思います。
ヨハン)もう一つ、「愛」というテーマもありますよね。トマスさんは、この言葉を同じようにカッコ書きで強調していますね。
トマス)そのとおりです。「愛」ももちろん大きなテーマですね。でも、それ以上に「自由」は大きなテーマです。なぜなら、「自由」により「愛」の可能性がはじめて生まれるのであって、その逆ではないからです。
アンナ)ヴァルキューレの「愛」とは「人類愛」のように思えますね。特に、ブリュンヒルデジークリンデに示す「自己犠牲」はそんな感じがします。赤面するほどひたむきな愛なんですが、そこには危うさもあると思うのですよ。一人で突っ走ってるブリュンヒルデの姿を見て、「よせばいいのに・・・」と思ってしまう自分がいたりもします。まあ、そこが、このオペラの楽しみだったりもしますね。
トマス)第2幕の初めから訳していると、ブリュンヒルデにおいては「お父さんにほめられたい願望」が「人類愛」へと転化していく様子がよくわかります。
ヨハン)そういうと悪い意味に聞こえますが。
トマス)いや、そうじゃないですよ。そういうものだと思います。それは子供が成長する上でどうしてもそうならざるを得ないことだと思います。そして理想を得ることも崇高なことなのです。でも、いつまでも「誰かにほめられたい」ということで生きていると、どこかで挫折しますね。ブリュンヒルデのキャラには、それは影のように最後までつきまとっているようにも思えます。
アンナ)ブリュンヒルデの愛の挫折は『神々の黄昏』で現実化しますね。これって『ヴァルキューレ』の崇高な人類愛の世界から見たら、ホラー映画ですよ。
トマス)それは含蓄のある一言ですね。私は、ワーグナーの凄みは「現実を糊塗しない」ことだと思います。私が生きるこの世界において「愛」は挫折してしまう・・・でもそれはなぜなのか。「ブリュンヒルデの自己犠牲」でブリュンヒルデが問うているのはそのことです。
ヨハン)でも答えは出ないままです・・・。
トマス)今も答えが出ていないことですからね。でも、先ほどの話に戻れば、それでもブリュンヒルデは「自由」を選んだ。そこには深い意味があります。「個人が自由に生きられる社会」は、自然にできあがったものではありません。ワーグナーが、そのようなことを見据えながらこの作品を作ったのは間違いないと私は思います。
ヨハン)そうなんですか?マルクスには、反動的なように言われています。
アンナ)でも、一方では革命に参加して亡命していますよね。
トマス)私は、ワーグナーの「作品=オペラ」のテクストから読み取る限り、彼はすごく本質的に「近代」というものを表現していると思います。『ニーベルングの指輪』というのは、ものすごくアクチュアルな取り組みだったのです。決して懐古趣味でも、ロマン趣味でもありません。そこに力があります。もっとこの話をしたいのですが、今夜は「打ち上げ」で酔っ払ってしまったので、次回にしましょう(笑)
アンナ)トマス、だいぶご機嫌ですね。やはり「ヴァルキューレ」完訳がうれしいんですかね?
トマス)なんか、あっという間に時間が過ぎた感じですね・・・。「オペラ対訳プロジェクト」でも、もっとも時間をかけて訳した作品になりましたね。それだけに思いが深いです。
ヨハン)トマスにとって、もっともワーグナーで思いの深い作品は何なんですか?
トマス)やはり『パルジファル』ですね。これは揺らがないです。次に『トリスタンとイゾルデ』、これも間違いない。その次は『神々の黄昏』、次が『ヴァルキューレ』かな?
ヨハン)あらら・・・『ヴァルキューレ』の順位はだいぶ低いですね。
アンナ)この順位は「音楽」が一番に来てしまうからですかね。だとすると、私もわかります。
トマス)うん・・・。そうですね・・・。
ヨハン)眠そうですね。ちょっと寝たほうがいいのでは?
トマス)・・・(眠)
アンナ)寝てしまいましたね・・・。
ヨハン)アンナさんは、ワーグナーが好きですよね?
アンナ)わりとね。
ヨハン)う〜ん、ぼくにはわからないなあ。さっきのような話がわからないんですよ。
アンナ)でも、ヨハンくんって、文学部の哲学専攻じゃない(笑)
ヨハン)わからないから、考えてしまうんですよ。この先、どうすりゃいいのかなあ・・・。特に就職したいわけでもなし。
アンナ)あのね。そういう態度がよくないんだよ。優雅すぎて呆れてしまうよ。