隠れキャストとしてのイエス〜パルジファル第3幕改訂版

「オペラ対訳プロジェクト」の「パルジファル」第3幕を大幅改訂しました。
http://www31.atwiki.jp/oper/pages/170.html
今まで不満に思っていた点を、一気に改訂させていただきました。
大きな改訂箇所は、「聖金曜日の音楽」と、それが終わった後の合唱部分です。
はっきりと誤訳の点が一か所あったので、それも直しました。
ちょうどバイロイトのシーズンですし、拙い訳ではありますが、ぜひご活用ください。
このプロジェクトは、特に、現地にいて日本語訳を入手できない方にお役に立つと思います。昨年も、ザルツブルク音楽祭でご活用いただいたのでうれしかったです。
さて、「パルジファル」のメインキャストは、パルジファル、アンフォルタス、クンドリー、グルネマンツ、(あえてあげれば)クリングゾルですが、潜在的なもう一人の主人公、それはイエス=キリストです。この点がツボです。このツボを押してあげないと、この作品のストーリーやセリフはまったくわけがわからないものとなります。でも、翻訳だけでは難しいので、「聖金曜日の音楽」は、いずれ、このブログで完全解説しようと思います。
この点は第2幕の理解にも必要ですが、第3幕では「聖金曜日の音楽」に集中的に現れます。ここでは「救い主=イエス」「救われた人=パルジファル」と読むべきと考えますが、この救われた「その人」(Der Mensch)とは、同時に「すべての人」とも読める・・・それが重要です。極端な話、「誰でもイエスになれる」というのが、この箇所のセリフの意味だと私は感じます。私は日本人ですから、これは親鸞のような思想と近いと感じます(詳しく勉強しているわけではないですが)。でも、ワーグナーのよくないところは、このような「普遍」を目指していたはずなのに、これをバイロイトという場に「密教化」したところですね。これはまったくダメな方針だったと思います。なぜかといえば、「密教」というのは「政治」をシャットダウンしているかのようで、すごく政治的に利用されてしまいます。「政治」から言えば「プライドの高い孤独な集団」ほど利用しやすいものないのですから。ただ、ワーグナーがすごいのは、「パルジファル」の「聖杯騎士団」は、まさにそういう集団として描かれていることだと、私は長いあいだ思ってきました。
でも最近思うのは、そうじゃないかもしれないな・・・ということです。「聖杯騎士団」というのは、わかりやすく言えば「ムラ」ですよね。今の日本も、こういう「ムラ」ばっかりです。誰か「世直し」で来たところで誰も信じられません。それを解体することは不可能だと思いますから、別の「ムラ」を作って相互けん制させるしかないように思えます。「奇蹟」に頼ってはダメですね。