ワーグナー(2)〜パルジファル

ワーグナーの作品は、前回書いた通りの本能的衝動を持っていると思うのですが、その本能の中には「聖性への憧れ」のようなものがあると思います。それがよくわかるのは「パルジファル」、続いて「トリスタン」です。この要素は「タンホイザー」もテーマとして持っていると思うのですが、それが私に今一つ伝わらないのは、この作品が世間的なモラルという余計なものを対立軸としてかかえこんでいるからだと思い至りました。
パルジファル」のプロットがすぐれていると思うのは、より神話的な題材に近づくことによって、そういう要素を排除しているからであり、「トリスタン」にはまだ余計なものがあります。トリスタンにとっても、周囲はどうでもいいのであって、問題は個人の救いがいかに得られるかです。
そういう意味では、ワーグナー作品は、良くも悪しくも、社会性が欠けていて、ひたすら個人の内面の救済を指向しているようにも思えます。「パルジファル」のような作品が心に痛切に感じられるというのは、たぶん、そんなに幸せなことではありませんが、この作品に出会えてよかったという人も相当数いると思います。