新国立劇場「ばらの騎士」レビュー(4月16日)

今週も大忙しでだいぶ遅れましたが、4月16日(土)のレビューです。立ち上がりはそれほどでもないように思えたのですが、だんだんはまっていった上演でした。私がとても良かったと思うのは、安井陽子さんのゾフィーですね。彼女の声はふくらみがあり、声量もあります。表現力もありますから理想的でした。
マルシャリンのカタリーナ・ベーンケさんも良かったですね。すごく安定した歌唱が光っていました。安心して楽しめます。
この二人に比べると、井坂惠さんのオクタヴィアンは表現力がとてもあるのですが、この日は声量が少し落ちるかなという感じでした。ただ、背が小さくて、いろんな衣裳で現れるのが可愛らしくて良いです。もともとそういう設定なわけですが、青い制服で現れる姿が特に良いですね。
フランツ・ハヴラタさんのオックスもすごく良いです。この方はDVDでしょっちゅう観ていましたがライブでは初めてなので期待大でした。『ルサルカ』の「水のお父さん(水の精)」とか『後宮からの誘拐』のオスミンとか「情けない役」(?)をやることが多い(それとも私がたまたまそういうのを見るだけ?)のですが、声が素晴らしいのはもちろん、思った以上に背が高くスタイルがけっこういいので魅力的でした。さすが名優です。
その他の日本人歌手もまた、加納悦子さんや黒澤明子さんなど充実の顔ぶれです。ファーニナルの小林由樹さんもとても良かったと思います。「テノール歌手」の水口さんは、声量や歌いぶりはいいのですが、ちょっと「カラオケ」を歌っているみたいでしたね。わざとやっているのかも知れませんが、私の意見ではここは単純にうまく歌ったほうがいいと思います。
ところで、このオペラの最大の魅力は、やっぱり最後の三重唱ですよね。これは涙なしでは聴けません・・・。
あとジョナサン・ミラー氏の演出は良いと思います。奇を衒わない感じですね。唯一よく分からなかったのは、第3幕のお化けのシーンですが、まあ、それぐらいはどうということはないですね。広々とした舞台の活かし方がとても良かったです。プログラムで「演出の時代設定を第1次世界大戦の直前としたのは、登場人物の誰一人として、これから起こるであろう大きな時代の変化を予感しないで生きていることを示すためだ」というような意味のことを書いています(4年前の初演時の再掲)が、私はまさに今の日本を思わせる話だなと思いました。とはいえ、演出そのものには、そんなに深刻なものを感じませんでしたが・・・。
ホフマンスタールのリブレットの魅力は、他愛のないドタバタ劇の渦中にあって、そこからふと脱け出したように「時は過ぎ去って行き、もう戻らない」という苦い認識が繰り返されることにあるでしょう。「何一つ永続するものはない」という旧約聖書で言えば『伝道の書』(ブラームスは晩年の『四つの厳粛な歌』でここから歌詞を取っています)、日本で言えば『方丈記』のような価値観が要所に埋め込まれています。R・シュトラウスは、そのホフマンスタールの意図を音楽へと昇華させており、これがこの作品を「オペレッタ」ではなく「正統派ドイツオペラ」にしているのだと思います。
マンフレッド・マイヤホーファー氏の指揮は、私が「ばらの騎士」を必ずしも良くわかっていないこともあるのですが、初めはもう一つのように感じられながらも、後に行くに従って滑らかな流麗さが感じられて良かったです。新日本フィルは弦と管のバランスが良いように感じます。最後の三重唱も華やかというよりは柔らかな音色で、私の好みには会います。早朝勤務だったのですごく眠かったため、その前のウィンナワルツで、けっこう舟を漕いでしまいましたが、かなり気持ち良かったですね〜。(後ろの席の方に迷惑だったかも知れませんが・・・。)かえって得難い体験かも知れません。
このような時期にあってライブの演奏を聴くことができるのは何よりも心の癒しとなります。頑張ろうという勇気が湧いてきます。来月の『コジ・ファン・トゥッテ』も楽しみです。