ヴァルナイ、メードル、ニルソン(2)

昨日の引用の感想です。
ヴァルナイは、この自伝を斜め読みしていて思うのですが、実に「分析的」です。それは彼女の歌唱そのものに良く現れているので、不思議ではありません。今回引用した部分で一番面白いのは、メードルとの比較で、こう書いている部分です。
「私のやり方は、レイヤーを重ねるようにして人物を造形し、私自身が分析して導き出した設計図に向けて、自分の本性のほうを和らげようとする。マルタは対照的だ。私の見たところ、彼女は、その並外れた能力を用いて、人格に由来する汲みつくせぬほど強烈な感情を、直接、自分の歌う役の感情に投げ入れるのだ。」
これは、まさにその通りなんだろうと思います。基本的に、彼女は、襞のある悲劇的なキャラが得意です。最後の言葉も面白く、自分が最もオペラに貢献したのは、オルトルートとエレクトラだろうと言っています。
Youtubeに彼女のエレクトラがあったので、リンクしてみましょう。
http://www.youtube.com/watch?v=pi4IOcq9exU&feature=related
彼女はニルソンとはタイプが全く違うので、評価のしかたは微妙な感じですね。それは、ニルソンの自伝も同じで、ヴァルナイへの評価は奥歯に物がはさまっているような感じです。というか、ニルソンはかなりはっきりとライバル心が感じられる文章ですが、ヴァルナイは「先輩の余裕」みたいな感じです。
私は、ニルソンはたぶんいい歌手なんだと思いますが、もしかしたら声質が苦手なのかも知れません。もっと素直な役が似合うような気がします。でも、これこそ趣味の問題でしょうか。私は分析的な表現を評価する傾向があるように思います。そう考えると、テオリンさんも分析的な表現のように思えます。彼女は、新国のインタビューで「似てるかどうかは別として、ニルソンのような自然な表現が好きですね」と言っているのですが、ある意味で的確な発言ですね。良くも悪しくも似てません。思うに、彼女はかなり分析的な歌手なので、私はすごく楽しめます。まさに「レイヤーを重ねる人物造形」だと思いますね。