バイロイト2009の「トリスタン」DVD〜イレーネ・テオリンとディーン・スミス〜

これ、けっこう繰り返し聴いてます。
マルターラーの演出については、いまさら何も言うことはないでしょう。そんなに評判は良くない感じですが、私は、「トリスタン」に関しては、音楽のじゃまをしなければいいと思うので、いいんじゃないかと。「リング」はリアリスティックな演出という道があるということについては、コペハンリングを見て膝を打ったのですが、「トリスタン」は難しいかもしれませんね。でも、もっと別に、いいアイディアがあるような気もします。
歌手については、ネット上の評判も悪くないような気がします。
クルヴェナール(ユッカ・ラシライネン)は、とても高い評価で、それはうなずけますね。
ブランゲーネ(ミシェル・ブレート?←どう読むんでしょう?)は、私はそんな悪くないような気がしますが、あまり世間的な評価は高くありませんね。ブランゲーネが良すぎると、イゾルデ(メゾに近い音域)とまじっちゃうから、これぐらいでいいような気が私はするのですが?演技も悪くないような気がしますけど。ただし、第2幕の「ブランゲーネの歌」でも、他とおんなじ歌い方をしている所が良くないのかもしれません。ここは、ペーター・シュナイダーの指揮もどうかなと思います。
でも全体的に、指揮はいいと思います。「トリスタン」に関しては、趣味があるし、こだわりだすとキリがないですね。ネットを見ていると賛否両論あるのですが、私の印象では、歌手の引き立て役に徹している感じです。指揮者が個性を出さない所に、トリスタン・ファンは物足りなさを感じるのかも知れません。でも、私は、これはいいですね。指揮は、淡々としているほうがいいです。
マルケ王のロバート・ホルは貫録のマルケで安心です。あと、ネットを見ていると、第1幕の最初のクレメンス・ビーバーの「水夫」を評価している記事がありましたが・・・、そりゃそうでしょう。確かに、これ、アカペラで、すごいヘンな歌を歌わねばならないから大変ですけどね。

さて本題。イゾルデのイレーネ・テオリンさま(←彼女だけ、さま付けはおかしい)ですが、いやあ、やはり予想通り独特の表現です。初め、「愛の死」を音だけで聴いてみました。いやあ、こんなの「愛の死」じゃないよ!と思って、どうしようか・・・と思ったのですが、そのうち面白くなって、聴けちゃうんですよね・・・。テオリンさんは、いい意味で、ほんとに個性的なソプラノです。そもそも、「愛の死」だけ先につまみ食いしようという私の根性が良くないのかも知れません。
予想では、第1幕の「イゾルデの語り」あたりがいいような気がしましたが、そこはまあまあで、思ったほどではありませんでした。期待しすぎなのかも知れません。むしろ、ブランゲーネが薬を持ってくる辺りが良かったです。その後の、トリスタン登場後もすごく聴けました。彼女は、注目してなかったところで聴かせてくれます。
第2幕ですが、ブランゲーネとの会話からトリスタンが登場するまでの場面は、いいのですが、もっと良くてもいいかも知れません。トリスタンとの二重唱もいいですね。でも、ここらへんは「趣味」かも知れません。
ロバート・ディーン・スミスは、私けっこう好きですね。この人、でも、好みが分かれるタイプですね。ポルタメントがけっこう強いので、ワーグナーらしくないという意見もありましたが・・・・。
ただ、声が澄んでいて発音がいいので、声質として私は好きです。でも、ポルタメントはともかく、もう少しピッチが良ければなあ。時々、ガクッとするぐらいに違う音が出てきます。第1幕が特に気になりました。
と言いつつ、第3幕の「トリスタンの語り」はけっこう聴けます。いい面わるい面いろいろ感じますが、トリスタンって、ヒストリカルも含めて、結局だれがいいのか良く分からないのです。ディーン・スミスは声がいいので、すごく聴けるんですね。あと、どうでもいいですが、表情がかわいいです。これはオペラだけじゃなくて、コンサートでもそうだということを最近発見しました。
それにしても、この方は、ジークフリートは歌わないんですね。「ぼくはヘルデンじゃない」と思っているんですかね?それはそれでいいんですけど。来年の春に「オペラの森」の「ローエングリン」(演奏会形式)と「大地の歌」に来てくれるみたいですね。これは聴きたいですねえ。
第3幕だと、テオリンさんは、トリスタンのところにやってきた直後の歌がかなり聴けます。ここは音楽はむしろ単調だと思っていたのに、表現力がすごいです。他の部分も含めて、この音楽を再発見させてくれるところがいいですね。
「愛の死」も「ドラマティック型」なのですが、ヴァルナイ、ニルソンとも違いますね。「それ、やりすぎだって!」というような感じですかね。特に、umraushen!という所のrの巻き舌をものすごく強調するところが目立ちます。
クライマックスの、Welt-Atem、も普通は、ヴェルトとアーテムをつなげて一体として表現するのですが、ヴェルトでブツッと切っています。このあたり、「ニーナ・シュテンメのほうが良かった」というのも、まあわかります。ブリュンヒルデがはまる人の「愛の死」は強烈すぎるはずなのです。シュテンメはYoutubeで聴く限り「聖歌風」ですから、確かに、このほうが普通かも知れません。
テオリンさんのイゾルデは、ちょっと違うなあ・・・と思いつつ、私には聴けます。「ここはちょっと?」と「こっこれは!?」がないまぜになってますね。きっと、彼女の声と表現のしかたが好きなんですね。面白いです。
なんにせよ、これは買って損のないDVDでした。良かったです。