アダージョ特集

「イゾルデの愛の死特集」と「ヘンなオケ曲特集」がご好評をいただいたようなので、Youtube特集第3弾をお送りします。
カラヤンアダージョ」というメジャーなCDがあったので、それにあやかって、そのCDには収録されそうにない「アダージョ」をご紹介したいと思います。
ただ、今回は「ヘンな」ではなく、いずれも心に染みいる名曲だと思います。でも、私のことですから(笑)、やっぱりどことなくヘンかも知れません。
さあ、行ってみましょう。

バルトーク「ピアノ協奏曲第3番」第2楽章
http://www.youtube.com/watch?v=zsMIuNgVVPg&feature=related
この前は「2番」でしたが、今回は「3番」。これ、作曲者が2人目の奥さんの演奏のために作ったので、荒々しい2番とは対極です。特に、この第2楽章は静かな曲です。バルトークらしくない気もするのですが、こういう「らしくなさ」なら、もっともっと書いても良かったのではないかと・・・。第2次大戦の最後の頃の曲なので、こういう祈りのような曲調になっているのですね。この動画は、学生オケみたいですが、音大だけあって、うまいですね。(所々気になるかも知れませんが)
ピアノはアルゲリッチで、オケもほとんど女性なので、実は作曲者の意図にものすごく沿っているかも知れません。この曲については、テクの問題じゃないような気が・・・。ちょっとスケルツォ風の中間部をはさんで、最初のメロディーが戻ってくるあたりが、ほんとにいいです。別府でこれ聴いたあと温泉に浸かれば、気分は極楽でしょうね(笑)。

・ベルク「ヴァイオリン協奏曲〜ある天使の思い出に」第2楽章第2部
http://www.youtube.com/watch?v=rpIaMMXKDGA&feature=related
これも有名な曲。アルバン・ベルクの最後の作品で、マーラーの妻アルマの娘マノンの死のレクイエムとして書いたら、自分自身へのレクイエムとなってしまったというものです。この最終部のメロディーは、バッハのカンタータから取っていますが、「音列」がちゃんとあるようです。でも、ベルクの音楽は聴きやすく、クライマックスとコーダが心にしみます。
この動画は、ヴァイオリンはツィンマーマンで、オケは日本のオケですが、どこでしょう?テレビ放映みたいなのでN響ですかね?

シベリウス交響曲第4番」第3楽章
http://www.youtube.com/watch?v=bsBw0JnQL0g&feature=related
サロネンスウェーデン放送響。それにしても、これ名演だと思います。ヘタすると、これ「アブナイ」んじゃないですかね。サロネン、目をつぶりまくりですが、決してパフォーマンスじゃなくて「マジ」な感じがするので、かえってそれが「怖い」(笑)です。
シベリウスって熱狂的ファンがいますが、それは分かります。こう言っては何ですが、彼の音楽は、全然「ヒューマン」じゃなくて「自然」そのもののような感じがして、そこが怖いのです。(←もしやファンの方の気にさわったらスミマセン。)もちろん決してアンチ・ヒューマンではなく、トランス・ヒューマンといえば良いかもしれません。
4番は、この楽章に限らず、シベリウスの最高峰とは言いませんが、その「凶暴な自然」みたいな音楽の本質が一番極端に出ている曲だと思います。
ニールセンとシベリウスは同じ年の生まれなのですが、ニールセンはこの曲が嫌いだった(これは彼に限らず評判の悪い曲だった)みたいで、逆にシベリウス研究家はニールセンをケチョンケチョンにけなしたり、と、この二人は相性が悪いようです。ニールセンは良くも悪しくも「ヒューマン」なので、そりゃ合わないなとも思いますが・・・。
そのデンマークフィンランドにはさまれて、「スウェーデン」って何なんだ?という気もしますね。すごくメジャーな作曲家を輩出しなかったせいで、この国のオケは、この2人の作曲家の作品を自国の作曲家のように演奏しています。もちろん良い意味で言っているのですが。
ところで、こういう名演だと余計気がつくのですが、なんかこの音楽の拠って来たるところって、ワーグナーの音楽と同じような気がします。これは、シベリウスが真似しているわけではなく、深いところから湧きあがって来るものが同じ「超人間的」(超越的?)なものだからではないでしょうか?
その意味では、シベリウスがオペラを書かなかったというのは示唆的です。ワーグナーは、音楽が「超人間的」なのに、脚本・台本は「純粋に人間的なもの」を目指してますから、そこに、ものすごい亀裂があるような気がします。

オネゲル交響曲第3番〜典礼風」第2楽章「深き淵より」
さて、「自然の脅威」に浸ったあとで、最後は、もう一度「ヒューマン」に還りましょう。
http://www.youtube.com/watch?v=gaNUD7TxtoA&feature=related
以下は後半↓
http://www.youtube.com/watch?v=BaFc9Ed63ww&NR=1

最初のバルトークとコンセプトが似ているような気がしますが、これも第2次大戦の最後の頃の曲なので、むべなるかなです。この時代に生きた人の心の叫びでしょうか。
オネゲルには、この前も登場してもらいましたが、この人の5つのシンフォニーは名曲ぞろいです。この曲は、日本語訳するなら「典礼風」というより「ミサ風」と言った方がわかりやすいかもしれませんね。全3楽章に聖書からのタイトルがつけられています。ただし、1楽章は「ディエス・イレ」(怒りの日)、3楽章は「ドナ・ノビス・パーチェム」(我らに平和を与えたまえ)で、いずれもミサ曲の歌詞でおなじみですが、この第2楽章はよく考えると馴染みのないタイトルなので、調べてみたところ「詩篇130番」らしいです。ボードレールにも同じ詩句があるようですが、ミサ曲にはないので、やっぱり「典礼風」のほうがいいんですかね?
自分の持っているCDの解説書を見ると、やはり「オネゲルの最もインスピレーションにあふれた曲ではないか」と書いてあります。長い曲なので、2つに分かれてしまうのは残念ですね。

最後に、ふと気付いたのですが、こういう「しんみり系アダージョ」って、書かない人はさっぱり書かないですね。書く人は、メジャーなので取り上げなかったのですが、ベートーヴェンブラームスブルックナーマーラーなど「シンフォニスト系」ですね。オネゲルショスタコシベリウスもその系列か。チャイコフスキーもいますね。
ニールセンはフシギな人で、そういう曲が思い浮かびません。ワーグナーヤナーチェクはオペラだから無いような気もしますが、仮に委嘱しても書かなかったような気が・・・。作曲家の個性って、面白いものですね。