モーツアルトの変ホ長調

池辺晋一郎氏の「モーツアルトの楽譜たち」という本を読んでいると、「モーツアルト変ホ長調が大好き」とお書きになっておられます。
本来、弦楽器には演奏しにくいはずのこの調を弦楽器のための作品に「わざわざ」使っていることに「モーツアルトの執念を感じる」ということなのですが、本当にわかりやすい説明ですね。
こういう「現場の声」(池辺先生は「同業者の声」とおっしゃりますが)は、もっと語られたほうがイイんじゃないかなと思います。
さて、そう思って『魔笛』を見ると、序曲も第2幕フィナーレの合唱も、やっぱり「Eフラット・メジャー」です。
魔笛』はフリーメーソンと関連付けて語られることが多いので、物の本を読むと、変ホ長調もまた「フリーメーソンの調」だから、と語られるのですが、本当にそうですかね?
私は芸術家というのは「現場の人」なので、「思想」のために「音」を犠牲にするはずがないと思います。ですから、池辺先生のような説明のほうが、よほど納得がいきます。フリーメーソンに入る前から、変ホ長調の作品が多かったのではないでしょうか?
ただし、近代的な意味での「音楽家という芸術家」という概念もまた、モーツアルトが初めて作り出した(そうとは意識せずに?)と私は思っております。(ベートーヴェンは、これを意識的に作り出したように思えます)
モーツアルトって、すごく身近な感じがするのですが、よく考えてみると、18世紀末の人ですよね。「18世紀という3世紀前の時代」を私たちに生き生きと伝えてくれる稀有の人です。