ヤナーチェクはフラットの多い調が好き?

相変わらずヤナーチェクに思いをめぐらしていたところ、前に「イェヌーファ」の第3幕の最後、なぜ変ロ長調の調号のまま、変ホ長調で終わるのかと疑問を呈したのですが、よく考えてみると、1つの場につき1つの記号という原則なので、単純に近親調だから変えていないだけのように思えてきました。また、第1幕の冒頭ですが、これは譜例の抜粋を見ると、変ホ短調の調号(フラット6つ)がついていたりするので、そう考えると辻褄も合うように思いました。
それはそうと、イェヌーファのボーカルスコアを見ると、シャープやフラットがたくさん付いている調号が多いので、気になって他の作品を見ると面白いことに気づきました。(基本、後期の作品は初めから調号がついていないケースばかりのようですが、もちろん無調というわけでもないので、ちゃんと調性はあります)
というのも、後期を代表する作品であるシンフォニエッタも、弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」も、変ニ長調です。マーラーの9番の終楽章もそうですし、リヒャルト・シュトラウス好みの調でもあるので、わりと後期ロマン派のイメージが強いように思える調なので、わりと意外です。また、ピアノ曲ですが、唯一のピアノソナタ「1905年10月1日」も変ロ短調だったりします。これだけ見ると、どうもヤナーチェクはフラットの多い調が好みだったような感じがします。(ストリングカルテットの1番はホ短調のようなので、もちろん全てではありませんが)
そう考えてみると、シンフォニエッタ冒頭で、金管がちょっとくぐもったような感じで鳴るのは必須かと思いますし、「ないしょの手紙」でも、わざと弦楽器が鳴りにくい調にすることで、独特の切なさが出ているのかなという気がします。
それにしても、これらが仮に、「シンフォニエッタ変ニ長調」とか「弦楽四重奏曲第2番変ニ長調」などというタイトルだったとすると、何かイメージが変わるような気がするので不思議なものです。

新国立劇場「イェヌーファ」感想

昨日(3月5日)の新国立劇場『イェヌーファ』に行ってきました。上演水準については何の心配もしていなかったのですが、期待以上に良かったと思います。忘れないうちに取り急ぎ記載します。
何よりも、トマーシュ・ハヌス指揮の東京交響楽団は、ヤナーチェクの音楽を非常に高いレベルで解釈して表現していたと思います。同じモチーフでもダイナミクスコントラストで非常に細かい陰影まで出していたところや、弱音の表情など繊細さが求められる場面で、実に表現力に溢れていたほか、オーボエクラリネットが声楽に寄り添う箇所などが非常に美しかったと感じます。
歌手は、イェヌーファのミヒャエラ・カウネさん、コステルニチカのジェニファー・ラーモアさん、それぞれ優れていましたが、とりわけコステルニチカの解釈が、容姿や声質とも相まって繊細な感じで、新鮮な解釈だったと思います。あと主役級では、出色だったのはラツァのヴィル・ハルトマン氏で、普段の男性的・攻撃的な部分と、いざという時の弱音の甘くやわらかな演技が使い分けられていて、大変好印象でした。これはラツァの役どころにピッタリという感じがしましたし、他の役でも聞いてみたいと思わされました。また、ハンナ・シュヴァルツさんは、おばあさん役ではありながら、若々しい感じで、さすが名脇役というべきか所々に光るものがありました。
全体を通して一番心に残った場面は、やはり第2幕のイェヌーファのアリアの箇所で、カウネさんの演技も非常に良かったですし、窓を開けて月明かりが入ってくる照明の具合も綺麗でしたが、指揮者が時々訪れるオケの沈黙の間合いを長く取ることも絶妙な効果を生み出していたと思います。背景で、ゆらぎを奏でる弦楽器には中声部から低音にかけて木管の響きが極めてうまくブレンドされていて、この場にふさわしい実に柔らかな響きだったと思います。
それに加えて、今までよく気づいていなかったのですが、プログラムに書いてあったので耳を澄ましていたのが、第2幕の最後の方でイェヌーファがラツァの求婚を受け入れる場面の、ソロヴァイオリンが何小節もホ音を持続する箇所。プログラムには、スメタナの「弦楽四重奏曲1番(わが生涯から)」終楽章の有名な耳鳴りの音と同じようにとあったのですが、この比較はなるほどと思わせるものがあり、この心理的耳鳴りを背景に、イェヌーファが半ば上の空でラツァを受け入れるというのは、セリフだけでは埋められない空白を音楽が埋めている典型的な例のように思い、このあたりの心理の綾が良く分かったのは得がたい体験でした。
また、合唱も、第1幕と第3幕にあるヤナーチェク・オリジナルの土俗的なコーラスを乱れなく力強く表現していて見事だったと思います。
さて、演出は、演出家(クリストフ・ロイ)の解釈はあるのですが、思ったよりオーソドックスで、このオペラの内容を深く読み込んでおり、私としては大変好感の持てるものでした。全体としては、コステルニチカが刑務所で過去を振り返るという解釈になっているのですが、いたずらに奇をてらうようなものではなく、登場人物の心理の動きを、シンプルな工夫で良く表現していたと思います。作品に即して素直に解釈するこうしたタイプの演出が高く評価されるというのは、良い傾向だと思います。
今回の上演で使用した版は、ややヤナーチェクのオリジナルに近いヴァージョンということで、第1幕でコステルニチカがイェヌーファにシュテヴァとの交際を禁止するシーンでのセリフが追加されているほか、いつも聴いているCDのコヴァジョヴィッツ版とは確かに違う感じがしました。最近の上演の主流はこちらということで、少し素朴な感じではあるのですが、このほうがいいと思える箇所が多々ありました。
それはそれと、日本語字幕を見ていると、私の訳がどうも誤訳ではないかと思われる箇所がいくつかありました。まあ、これは仕方がないとして、日本ヤナーチェク友の会の対訳版も会場で購入できたので、本当に大きな間違いがあったら、またいずれ手直ししたいと考えています。
いずれにせよ、私としては今回の上演を通して、『イェヌーファ』について、かなり深く理解できたように思うので、大満足でした。私だけではなく、観客の反応も非常に良かったように感じました。基本的にヤナーチェクはじめ東欧物は日本人に相性がいいように感じるので、これからもぜひ上演していただきたいところです。(順当に行けば、次は『利口な女狐の物語』か、『カーチャ・カバノヴァー』かと思われるので、首を長くして待っていようと思っている所です。)

イェヌーファ 第1幕冒頭の音楽について

「訳者コメント」に書いたヤナーチェクの短い「叙情的モチーフ」ですが、改めて聴いてみると、『イェヌーファ』第1幕の冒頭のシロフォンが「カラカラカラ・・・」と打ち鳴らす音も、まさにそうではないかと思いました。これは水車が水流を受けて、カラカラカラと回る音を思わせるので自然描写でもあるのですが、一方で何とも言えない不穏な気分を醸し出していると思います。実際、このあと第1幕の最後に、ラツァがナイフを持ちながらイェヌーファに近づく場面でもこの音楽が再現されるので、どうも「嫉妬」という感情と結びついているように個人的には思います。「嫉妬」といえば、ヤナーチェクにはまさに『嫉妬』という本来このオペラの序曲に考えられていたオーケストラ曲があります。ここでは、印象的に何度も繰り返されるオフビートリズムと不協和音が、まさにラツァの嫉妬そのものを感じさせるのですが、曲としては大掛かりすぎてオペラの序曲にはふさわしくないと最終的に判断されたと見られます。その代わりにシロフォンから始まる現在の短い導入部が付け加わったのですが、この変ハ音と変ロ音がただ交替するシンプルなモチーフと、その後に続く流れるようなヴァイオリンの半音階だけで、ただならぬ気分を全て表現できたという点が、凄味を感じさせる点だと思います。
ついでながら、冒頭をIMSLPのボーカルスコアで見ると、調性記号はフラット4つなのでヘ短調または変イ長調なのかと思いきや、さっきのシロフォンもバスも変ハ音を執拗に主張しているので、これはあえていえば変イ短調の音楽なのかなと思えます。変イ短調イコール嬰ト短調なので、むしろシャープ5つの調性記号のほうが楽譜が読みやすいのでは?と思ったりするのですが、この先もそういう箇所ばかりなので、どういう意図でこうなっているのか意図がよく分かりません。転調している箇所でも、調整記号がそのままになっている箇所も多いので、確かにこれぐらいなら初めから記号が無い方がむしろ読みやすいのではと思います。驚くのは、第3幕の終結つまり全曲の最後の箇所も、やはり第1幕冒頭と同じフラット4つなので、これは統一感という意味で分かるのですが、実際の音楽は変ホ長調の和音が繰り返されで終わるということで、これもユニークです。この幕切れは、耳だけで聴いていても、何となく終止感が薄いように感じるので、あるいは完全なハッピーエンドを留保するという意味で、ドミナントのまま終わらせたのかも知れません。
やはりスコアを見てみると色々面白いのですが、ボーカルスコアしかISMLPに無いのは残念なところです。(ポケットスコアは1万円以上するようなので、ちょっと引いてしまいます)

イェヌーファ ゲネプロの動画とDVDでの予習

Youtubeで、イェヌーファのゲネプロの抜粋がアップされているとのことで、見てみました。
https://www.youtube.com/watch?v=I_DKdGR1cNE
なるほど、舞台は結構シンプルですね。ハンナ・シュヴァルツさんは、全然「おばあさん」という感じじゃないので、初めはいったい誰の役かと思いました(笑)
シュテヴァは、どこかさえない感じなのですが、ミヒャエラ・カウネさんは、まんざらでもなさそうなのでウームという感じ。ただし、ラツァは「ランニング姿(?)」なので、なおダサい。これじゃ確かにモテないだろう。
おばあさんだけじゃなくて、コステルニチカも若づくりなのが面白いところ。イェヌーファと並ぶと、親子じゃなくて姉妹みたいな印象。ミヒャエラ・カウネさんなので、アラベラとズデンカみたいに見えます(笑) ただし、コステルニチカの歌はしっかりしているので、音楽を聴くと納得。
最初の画面で右端に出てくるのも、この若作りのコステルニチカだったのかと気づきました。どんな解釈でこうなっているのか、なかなか興味深い所ではあります。
合唱もソロもそうですが、東京交響楽団は、さすがヤナーチェクの演奏実績が随一なだけあって、しっかりとヤナーチェクの音色が出ていると思いました。たいへん期待が高まってきました。
さて、今週はDVDも見て、予習しておきました。

Jenufa [DVD] [Import]

Jenufa [DVD] [Import]

これが私の持っている唯一のこの作品のDVDなのですが、バルセロナ・リセウ劇場の2005年の公演ということで、指揮はペーター・シュナイダー、イェヌーファはニーナ・シュテンメ、コステルニチカはエヴァマートンと、なかなか重量級のヒロイン2名です。演出は随所に工夫があるのですが、比較的オーソドックスですし、演奏も良いと思うので、最初に見るにはオススメかと思います。(すでにカウネさん主演のDVDもあるようですが、これは実演に接するまでは見ないでおこうかと思います)
圧巻は、やはり第2幕のヒロインそれぞれのアリア。このような演奏で聴くと、このアリアに限らず、第2幕はよくこんな風に作曲できたなと感心する最高の出来栄えだと思います。劇と音楽が完全に融合していて、ヤナーチェクはここで完全に突き抜けて、地方の音楽家から大作曲家へと脱皮したような印象を受けます。

イェヌーファ対訳〜「訳者より」アップ

イェヌーファ対訳について、「訳者より」を掲載しました。
http://www31.atwiki.jp/oper/pages/3111.html
主に、ヤナーチェクの人生における「イェヌーファ」の意義と、登場人物の性格を述べたうえで、最後に音楽面について思う所を書いています。
音楽面については、何となく感じていたことはあったのですが、いざ文章にしてみると、なかなか上手く表現できませんでしたが、考えをまとめるという意味では良かったです。これを書き終わってから、あらためてこの作品を聴きなおしてみると、短い「叙情的モチーフ」が、ますますはっきりと聞こえるようになりました。時間があれば、もう少し音楽面については書いてみたいと思うのですが、できるかどうか・・・というところです。

ヤナーチェク「イェヌーファ」対訳完成

ヤナーチェクの代表作『イェヌーファ』の日本語訳を、オペラ対訳プロジェクトにアップしました。
http://www31.atwiki.jp/oper/pages/413.html
間もなく、新国立劇場で初めてヤナーチェクが上演されることもあり、ヤナーチェクオペラの普及も兼ねて何とか上演前にアップしたので、予習などにお役立ていただけると嬉しいです。
なお、このオペラに初めて触れる方のために、「あらすじ」も作りましたので、こちらもご覧ください。(先ほどのリンクからも入れます)
http://www31.atwiki.jp/oper/pages/3110.html
ただし、一つお断りしないといけないのは、このオペラの原文は、ヤナーチェクと同じくモラヴィア出身のガブリエラ・プライソヴァーの戯曲『彼女の養女』をヤナーチェク自身が台本化したものであり、モラヴィア方言で書かれていることです。あくまで「方言」なので、チェコ語と全然違うわけではないですが、使用単語がかなり独特です。私が手持ちのチェコ語=日本語辞典を引いても、約3割は辞書にないという状態でしたので、そのような箇所は英訳からの重訳となっています。とはいえ、英訳も不明確な場合があるので、どうしても間違いはあると思います。その意味では、完全に原文に即した翻訳とは言い難いのですが、「出すことに意味がある」との思いで、アップしました。細かい所は目をつぶっていただき、劇の大きな流れを捉えるのに、お役立ていただければと考えています。
今回、リブレットの原文も自分で作りました。とはいえ、外国のネット上にアップされているリブレットを探してくるのですが、最初に使ったリブレットは、チェコ語の表記がめちゃくちゃで、「こりゃいかん」と途中でボツにしました。その後、かなりマシなリブレットを探してきて使ったのですが、それでも「このリブレットにはト書きがない」という事実に直面し、ついにはCD付属のブックレットを参考に自分で打ち込むという一大決心(?)に至りました。
こうして、チェコ語のタイプライティングという人生初の得がたい経験がはじまったわけですが、すぐにこぼれたのは「いや〜、チェコの人、たいへんだわ・・・」の一言。英語のアルファベット以外に10文字以上が追加されているので、ほんとに大変です。ěščřžýáíéůú・・・お世話になりました!チェコ語には悪いけど、英語がいかにシンプルか逆に感動してしまい、英語は世界語になるはずだと変な納得の仕方をしてしまいました。
さて、この作業が一段落してやれやれと思ったところで、よく考えてみると、こんなに紛らわしい表記なのだから、かなり信頼できると思っていた使用中のリブレットでもミスはあるのではとの疑念が頭をもたげました。すると案の定、たまにではあるが、一定量のミスを発見。そんなわけで、最後に、セリフ・ト書きを問わず、CD付属のリブレットとの照合を行いました。食い違っている場合は、ISMLPのボーカルスコアとも照合。基本的に多数決を採用しました。いやはや、チェコ語、おそるべし。
以上、グチみたいなものでしたが、そんなわけで、日本語訳は一部不確かではありますが、チェコ語の原文はそれなりに信用できるかと思います。ヤナーチェクの「代表作」をお楽しみいただければと思います。

お正月に振り返るニールセン生誕150年

新たな年を迎えました。昨年は公私とも多忙、かつ気力が湧かないということもあり、ほぼ休止状態でありましたが、今年はどうなることやらという感じです。できれば、多少なりとも記事を書ければと思っているところです。
さて、昨年2015年はデンマークの生んだシンフォニスト、カール・ニールセンの生誕150周年(誕生日はほぼ半年前の6月9日)に当たり、ヨーロッパではそれなりの記念行事やコンサートがあったようですが、日本では当然のことながら、ほぼ何の盛り上がりもなかったわけですが、そんな中にも、いくつか特筆すべきことがありましたので、それを箇条書きにしてみます。(CDは必ずしも昨年リリースされたものではありませんが)
(書籍)
・「フューン島の少年時代」(カール・ニールセン自伝、長島要一訳、彩流社
カール・ニールセン自伝 フューン島の少年時代: デンマークの国民的作曲家

作曲家自身が村のペンキ職人(兼楽師)の家の子供として生まれ、音楽院に入るべくコペンハーゲンに旅立って行くまでの幼年期・少年期を描いた自伝。デンマークでは自伝文学の名作として知られているようであり、今回本邦初翻訳で読めるのは大変有難い。単純に伝記として面白く読めるのは勿論、随所に鋭い人間観や独特のユーモアが展開されており、非常に興味深かった。巻末に訳者の長島氏が書いた伝記と作品解説も付されており、こちらも参考になる。

・「ポホヨラの調べ」(新田ユリ著、五月書房)
ポホヨラの調べ 指揮者がいざなう北欧音楽の森 《シベリウス&ニルセン生誕150年》

指揮者として北欧音楽を多く指揮している新田ユリさんが、シベリウス、ニールセンをはじめ、北欧音楽の名作を語る本。この本で新田さんが論評している作品は、全て自らが指揮した作品と言うことで、指揮者の観点から見た得がたい論評となっていると思う。日本シベリウス協会会長として、シベリウスの作品の方に紙幅を多く割いているのは当然のこととして、ニールセンの交響曲は「1番」「2番」「4番」の3曲のみであるのは若干残念だが、その内容は長年のニールセンファンである私も知らなかったことが多く、非常に示唆的であった。巻末の北欧音楽CD評も大変ためになる内容。ニールセンについては、ユッカ・ペッカ・サラステフィンランド放送響の「1番・2番」を取り上げているが、この中で新田氏の師匠であるオスモ・ヴァンスカのニールセン音楽に対するこだわりは「表情の明晰さ」であると書いておられる。その後に新田氏の言葉で「ニルセンの交響曲は演奏者、特に指揮者を裸にすると思っている。よそ行きの顔では演奏できない」と書かれているのだが、これこそニールセン音楽に対する最大の賛辞ではなかろうかと思ったりした。

(CD)
サカリ・オラモ=ロイヤル・ストックホルム・フィル「4番・5番」「1番・3番」
ニールセン : 交響曲第4番 「不滅」 , 交響曲第5番 (Carl Nielsen : Symphony No.4 'The Inextinguishable' , Symphony No.5 / Royal Stockholm Philharmonic Orchestra , Sakari Oramo) [SACD Hybrid] [輸入盤]

生涯最高の名作である「4番・5番」のカップリングとあって試しに購入してみたが、ニールセンの解釈に新境地を打ち出すような演奏と言えるのではないかと感じた。と言っても、特にひねっているわけではなく、従来の演奏で「ここはもっとこうなのではないか?」などと感じてきた箇所を説得力を持って説明していくような意味であり、その意味では、オーソドックスな解釈を徹底的に詰めることによって到達した地平のようにも思える。私のようなマニアックなファンには垂涎の一枚。特に5番の解釈が素晴らしい。「1番・3番」も同様に素晴らしい。

パーヴォ・ヤルヴィ=フランクフルト放送交響楽団交響曲全集」
ニールセン:交響曲全集

これは直近リリース。ドイツのオケのニールセン録音と言うのは、実は非常に珍しいが、演奏は思っていた以上に素晴らしい。サカリ・オラモストックホルムが「主情的」とすれば、こちらは「客観的」でメカニカル。オケの楽器(とりわけ木管楽器)の音色が粒だって聞こえるほか、ドイツのオケらしく低音から積み上げる音作りによるサウンドもゴージャスに感じられる。パーヴォ・ヤルヴィの解釈も穿ったものではなくストレートで、ニールセンの交響曲の持つパワーをうまく引き出している。実は私自身の好みは、前出のサカリ・オラモのような繊細な解釈にあるが、仮にニールセンに突出した関心がなくとも、オーケストラファンにとって買って損はないディスクだと思う。その意味で、ニールセン音楽の普及度を増すことに貢献すると思われる「ありがたい」ディスクである。

・ダグラス・ボストック=ロイヤル・リバプール・フィル「交響曲全集」(ニールセン10CDコレクション所収)
CARL NIELSEN/ THE DANISH SYMPHONIST

6つのシンフォニー、3つのコンチェルトをはじめ、ニールセンの代表作ほか名作「木管五重奏曲」、全てのピアノ曲などを10枚のCDにまとめ、何と1600円(!)で販売している。アマゾンで発注しようかと思っていたところ、年末に渋谷のタワーレコードで発見したので迷わず購入。交響曲は1999年から2003年までの録音ということで、やや時期が古くなるので、とりあえず安いからという理由で購入してみた。聞いてみて思ったのは、演奏は良い意味で「素朴」というか「普通」なのだが、この音楽に寄せる指揮者や楽員の熱気のようなものが確かに感じられて好ましい。交響曲以外の作品も多く聞くことができるので、こちらも売り切れにならないうちにオススメしたいディスクである。アンネ・エラン(Anne Øland 発音が分からない)の弾くピアノ作品も、テクニック的にも、作品解釈的にも、実に優れているように思われ、彼のピアノ音楽(全くポピュラーではないが)に関心のある方にもオススメである。

(サイト)
http://www.carlnielsen.org/en
デンマークの生誕150年公式サイト。昨年繰り返し見たが、伝記的な部分はもちろん、作品ページでは、一つ一つの作品について、音源を聴いたり、何よりもスコアを直接参照できる(しかも見やすい)点が素晴らしい。