ベルク「叙情組曲」〜ストリングカルテットのエロス〜

トマス)アルバン・ベルクの「叙情組曲」を聴いていて、ふと思ったのですが、この匂い立つようなエロスというのは、弦楽器でなくては表現できないですよね。この曲というのは、その肌触り感が生々しいまでに表現されていると思います。絵画で言えば、クリムトのような装飾的甘美さを越えて、エゴン・シーレのような剥き出しの表現に行きついていると思います。だからこそ、演奏には、すごく差があります。私のおススメ盤はこのシェーンベルクカルテットの演奏です。この曲の録音については、たぶんこれが今のところベストです。
http://tower.jp/item/924776/Berg%EF%BC%9A-Complete-Chamber-Music---Schoenberg-Quartet,-etc
ヨハン)う〜む。なんかヌメヌメっとした演奏ですね。
トマス)そこがいいんですよ。鋭角的な、さばさばした表現ではだめだと思います。単なる私の感性ですが。
アンナ)特に第4楽章が「デカダンス」そのものですよね。「絶望的な愛」という感じです・・・。
ヨハン)第5楽章もすごいですね・・・。特に、コーダの後ろ髪を引かれるような表現はすごすぎ。僕には、シューマンピアノ曲の最も怖い世界をカルテットで表現したような気がします。
アンナ)終楽章では『トリスタン』のモティーフが印象的です。
トマス)その囁きに反応して、激しいモティーフが出てきます。ここは凝縮された空間ですね。一音一音がスゴすぎる。
ヨハン)ああ・・・これはいいですね。息も絶え絶えという感じですが。
アンナ)なんか後ろ暗いものが残りますよね。決してメジャーにならない曲だと思います。
トマス)そうなんですが、これは私にとって、カルテットの名曲中の名曲だと思いますね。ただ、このディスクで聴かないと分からないですよ。この演奏のようなエロスを感じさせてくれなければ・・・。
ヨハン)ストリングカルテットというと、この時代では、バルトークを評価する向きが高いと思いますが、バルトークにはエロスを感じないのですかね?(笑)
トマス)いや・・・。バルトークの6曲というのは紛れもなく最高のものですよね。でも、私の心は、この音楽にはあんまり反応しないんですよ。なんか冷たい感じがするのです。その点、ベルクとヤナーチェクは熱い。熱すぎる・・・。
アンナ)でも、私は、ベルクのこの作品も「冷たい作品」のように思っていましたよ?案外、演奏の問題かもしれませんが。
トマス)そうかも知れません。ストリングカルテットにおいては、こういう分類が可能かも知れませんね。一つは「ハイドンベートーヴェンバルトーク」、もう一つは「モーツァルトシューベルト−ベルク、ヤナーチェク」。両者はまったく相容れないものかも知れません。